まだまだ宴もたけなわ、甘酒の肴は実に充実している。
ここまでの道すがら、右から左から現れる誘惑に勝てるはずがない、いやむしろ、甘んじて負けを受け入れる他なかったのだ。
まずは黄金鶏神社の神主による唐揚げ屋。
なんと驚くべきことに、ベーシックともいえる鶏肉の唐揚げはメニューになく、豚肉やホタテなどなどの一風変わったラインナップの中から、明日の胃もたれを考えずホルモンの唐揚げを選んだ。
客からの視線を一身に集める神主の頭上の鶏を尻目に、お次はすぐさま隣の屋台へ。
一つ言葉を投げれば十返るようなマシンガントークに目を丸くしつつも、端々から人情味溢れるプクリポのおばちゃんからは海老たっぷりの塩焼きそばを一舟仕入れた。
そろそろ甘いものも欲しいなと思ったところ、ちょうど子供が集まる屋台には、定番ともいえる綿飴が居並ぶのが目に留まる。
「またてっきりポン菓子でいくのかと思ってたが」
店内では、相棒の選択に驚きつつも、おかっぱ頭のエルフの青年は手際良く夢のように甘い煙を絡め取り大きく大きく育てていく。
「あれな、意外と『OZ』からのレンタル料が高いんだ。それにほら、綿菓子って何かキノコ雲みたいで美しいだろ」
「ああ、そういうことな」
心境の変化でもあったかと思いきや、結局平常運転だったことに何処か安堵しつつ、形の整った一つを手渡せば、相棒はそれを子供ウケの良さそうなパッケージでひらりとくるむ。
「あれは?仮装の道具かしら。そんなものまで売っているのね」
「ああ、お面屋さんですね」
綿菓子の隣にはお面。
ある種の様式美である。
ドラキーやサイクロプスなどのモンスターのほか、ドルブレイブの面々に、最近人気急上昇中のウェナブルーのお面まで。
綿菓子の袋もお面に合わせてか、大多数をドルブレイブのイラストが占める。
……アカックブレイブのイラストに限り、妙に鬼気迫るというか怒りの形相に見えるのは、ギンガムマフラーの店主が彼女に対して何か思うところがあるからなのかもしれない。
よもや、取締対象としてお世話になっているわけではなかろうが。
「綿菓子買います?」
「ん~、そうねぇ……嵩張りそうだから、あっちの方が良いかしら」
「あ、良いですね!……って、じにーさん!?」
メレアーデの視線の先、フルーツ飴の屋台で呼び込みを行うは、見知った顔であった。
「……らっしゃっせ~……お!ユクの字じゃん!隣のお姫様も買ってって買ってって!」
社交辞令的なものだろうが、じにーの交友関係、ひいてはアストルティア指折りのセレブ、リーネを介した繋がりを考えるとあながちお世辞とも言い切れぬ言葉にひやりとする。
「いや~先物取引っつうの?ちょっと手出してみたら苺の在庫大量に抱えちゃって、軽く人生かかってんのさ~。で、4本?8本?12本?」
これまた何処まで冗談なのか、早めに切り上げないと指と指の間という間に苺飴の串を挟まれかねない。
「普通に2本でお願いします」
「あいあい~」
結果、常識的な数量を頂いて、さっそく頂く。
ルビーのような紅は飴の色かと思ったが、予想に反して使用されている苺は高級なようで、外を覆う飴の味に流されず、気品ある甘みと酸味のハーモニーが口いっぱいに広がる。
薄氷のようなパリパリの飴の食感がまたアクセントとして良い仕事をして、腰掛けるまでには苺飴は姿を消していた。
続く