「……これは流石にマズい…ッ!!」
あわれ、明らかな過積載のレンタルドルバイクはルシナ村を目前に限界を迎え、ハンドルがポッキリと車体から泣き別れした。
「ぎえええぇぇぇーーー!!?」
ぽーんと空へと放り投げられる4名、各々に悲鳴を迸らせるが、脳内のそろばんで弁償費用を弾き出したらぐっちょの絶唱に全て上書きされた。
せめてらぐっちょの落下地点が柔らかな浜辺であったのが幸いと言う他ない。
「だーっ!」
ユクが。
「じッ!!」
じにーが。
「パいーーーっ!?」
りゅーへーが。
次々とらぐっちょを着地点として跳ね散らかり、その度にらぐっちょの喉は新鮮な濁声を絞り出した。
「……ぐふぅ……すっかりペラペラなワタシ……」
「わあぁ!らぐっちょさま、ごめんなさいぃ!!」
比喩でもなく風に飛ばされそうな薄っぺらいらぐっちょの右ドラムを掴み、りゅーへーは必死に陸地へ繋ぎ止める。
その横で、思いもよらず素早い再会となったことを3人のウェディは喜び合う。
「……私が言うことじゃないかもだけど、大丈夫?」「いやホントそれな……」
「でも無事で良かった……」
囚われの身であったはずのあげはに手を差し伸べられ、どっと疲れが込み上げるも、じにーとユクは身体を起こす。
そうして2人はようやく浜辺に広がる銀の液体、ヤクト・メイデンドールの残骸に気付く。
「いや流石だぜ、あげは氏。まさかこの短時間であのデカブツを倒しちまうとは」
「ホントホント。その強さにシビれるあこがれる」
「……二人して私をゴリラ扱いしてなぁい?」
「や、冗談冗談!……で、どういう状況なわけ?」
満面の笑みを浮かべるあげはの腕の中で、モモがパリパリと紫電を放ち始めるものだがら、じにーは慌てて取り繕う。
「呑気なものだな」
そんな3人を、腕組みし見下す姿がひとつ。
「…っ!?」
首を絞められた記憶も新しいユクにとっては勿論、じにーとあげはから見ても、背丈はおよそ違えどアルファに酷似したその顔に緊張が走る。
「ちょっ!争わないでーーーっ!!べーやんは敵寄りの仲間というか、仲間寄りの敵と言うかーーーっ!?」
「……それ敵なんじゃん?」
フォローしたいのかしたくないのか。
しかし結果として双方、とてもではないが戦端を開く空気には至らず済んだのは間違いない。
「……ふん」
ここまでは魔造術により生み出した拳に掴まり、らぐっちょに先んじて進んできたベータであるが、肝心の夢幻郷へと至るにはりゅーへーの助けがいるのだ。
「ニワトリ頭、お前と娘の2人くらいなら担いで飛べる。そいつらと話があるなら、早く済ませろ」
一瞥もくれずに手短に告げると、付かず離れず浮かせていた2つの巨腕をブロックに解き、ハンモック状に再構築してごろりと横になると目を閉じた。
「出来ればべーやんも加わってほしかったんですがの……」
らぐっちょのなげかけは聞こえているだろうが、ベータは微動だにしない。
まあ、先の自分の言葉通り、ベータの立場は極めて危うい。
下手をうってまた敵対関係に逆戻りするリスクを考えれば、かえってこの方が良いのだろう。
アルファにハクギンブレイブ、いずれにせよ追いかける相手は遥かな洋上。
自然と一同はベータの魔造術を除けば唯一の追跡手段となるウルベアンチェイサーのもとに集う。
黒煙が立ち昇るなか、魔改造の影響で墜落したウルベアンチェイサーの応急処置を進めていたハクトもまた、ある人物の不参加を嘆く。
いや、それは件の彼のひととなりに対する諦めの言葉であるか。
「多分……一番真相に近いのは、遺憾ながらあの人だと思うんですけど……ううん……」
スパナを握る手の甲で額の汗を拭いながら、本当にうんざりという表情を浮かべて浜辺を見やる。
「ああ、ううむ……」
「あ~……んん……」
ハクトの示す彼を知るセ~クスィ~とユクは共に眉間にシワを寄せ、フタバはキシャーと威嚇の声をあげ、あからさまな敵意を隠さない。
「ふうむ。なるほどなるほど?」
注目を一身に集めながらも、そんなものは何処吹く風、ドラセナ・マッサンゲアナのような独創的な髪をしならせ、ケルビンはヤクト・メイデンドールの残骸のまわりをぐるぐると巡る。
やがて立ち止まると、躊躇いなく銀の液体に人差し指を突っ込み掬い上げた。
「あっ……」
ギガパレスにおける忌まわしき記憶が蘇り、ユクは目線を逸らす。
「え!?」
「……うげっ!」
「やれやれ……」
「……食べて大丈夫なんですかの……?」
その後、ケルビンの口から地面へ虹がかかるところまで、ユクが予想した通りの流れが展開される。
リアクションは十人十色なれど、アレを会話に交えるのはやめておこうと満場一致に至る一同なのであった。
続く