◇◇◇ 隠者の解放・職業クエストの内容、ならびにゾーン技のネタバレを含みます。あらかじめご了承ください ◇◇◇
メルサンディ穀倉帯のはずれ、こもれびの広場を流れる川に連なる洞穴の奥の奥。
誰にも悟られぬ隠された地に、密かにアストルティアを見守る隠者が住まう。
遠大なる使命を帯びるに反して、かの隠者、パンメッポは今日も今日とて、傍から見ればまどろんでいるような無防備のままに世界を垣間見る。
大地の鼓動、風のささやき、水の調べ……
精霊とは、成熟した自然からあふれ出た生命力の具現化。
アストルティアの空をなぞるように漂うパンメッポの意識は、精霊の営みを観測するうち、不意に噴火の如く大量の精霊が湧き上がる気配を感じた。
位置はレンダーシア、グランゼドーラ王国と察して、パンメッポは首を傾げる。
グランゼドーラは王都である。
街路樹の緑はあれど道は石畳に舗装され、大地の息吹は乏しいと言える。
アストルティアの民もまた、雄大なる自然の一部で、然るに人々の営みからも精霊は生まれるが、それはともすれば見落としてしまいそうなほど僅かで、人々の集う王都とはいえこのように噴出と呼べるほどの勢いはあり得ない。
「おぉ……なんと!」
この度は一体如何なる事象により生まれた精霊であろうかとその声に耳を澄まし、パンメッポは思わず感嘆の吐息を漏らした。
パンメッポの脳裏に伝わるは、は、かたや黄金かたや純白の、星と羽根を散りばめた衣装をまとう二人のオーガの乙女の舞い踊り。
天井は蒼天、床は水面を象った荘厳なグランゼドーラ劇場の舞台から響き渡る澄んだ歌声は、人々のみならず、雄大な自然すらも心躍らざるを得なかったのだ。
指先が観客に向けてしなやかに伸ばされるたび、また、くるりと身をひねる華麗なステップがステージを鳴らすたび、はじけるように色とりどりの精霊たちが生まれ出る。
やがて終には並び歌う二人の背中に妖精の羽根が伸びるように大きな大きな精霊がまろび出て、虹のような暖かな光が会場を包む。
この劇場に、精霊を目視できる者はいない。
しかし誰もが、確かに精霊のもたらす温もりを享受した。
精霊の力は本来、アストルティアの自然の回復に費やされるもの。
精霊たちは己の生命と引き換えにアストルティアを癒す。
その理をアストルティアの民へと応用するが隠者の術。
門を叩くどころか、精霊を認知せぬままに、二人の舞い手はそれをやってのけているのだ。
「……ほっほっ、斯様な者たちがおるのならば」
後継者など、望むべくも無いと思っていた。
そうして世界との関わりを絞っていた己の、なんと狭量であったことか。
後ろ髪を引かれつつ、パンメッポの意識はグランゼドーラ劇場をあとにする。
遠くない未来、必ず彼女らは隠者へと至るであろう。烏滸がましくも先達として、導く準備をしなくてはなるまい。
パンメッポが去った後も、歌声は高らかに響き、精霊たちは産みの親のまわりをじゃれつくように愛おしむように飛び回る。
テルルとマユラが駆け出しの隠者として、自ら生み出した精霊たちとともに、世を儚むもう一人の隠者とのアストルティアの命運を賭けた戦いに挑むのは、今少し先の物語である。
~HappyBirthday~