「ふんっ!んぐぐぐ……」
つい昨日まで花火屋の屋台だった廃材の一つを必死の形相で持ち上げようとするマイであったが、冒険者といえど、もっぱら知識を武器とするマイに建材運びは荷が勝ちすぎる。
「見てらんねぇ。重たいもんはオレに任せてその、なんだ、のぼりとか垂れ幕とか、その辺頼む」
見かねた伊達男がヒョイと柱の2本を取り上げる。
「……何も、アンタらまで付き合わなくてもよかったんだぜ」
言われた通りの役割分担で大八車へ廃材を運ぶ傍ら、あくまでぶっきらぼうにウェディの冒険者、ヒューザは口を開く。
「なんのなんの。人手は一人でも多い方が助かるでしょ?」
マイだけではなく、秋祭りを堪能した冒険者たちが自主的に集い、後片付けはつつがなく順調に進んでいる。
マイとヒューザ、そして何よりも2人の少女の活躍で式神たちの勘違いが正され、連日大賑わいをみせた実りの原は、もとの姿、祭りを知る者からすれば少しだけ寂しい開けた様相を順調に取り戻しつつあった。
「まあ、な……って、お前は早速サボってんじゃねぇよ豚ネコ!!」
しかし、大八車をベッド代わりにもたれかかり、鼻提灯をこさえて飛び出したお腹をポリポリと掻く巨猫族のキャット・リベリオを見るなり、和やかな空気も一転。
「ニャアアア!!?」
廃材を両手剣に見立てたビッグバンソードが炸裂する。
「も~~っ!散らかさないでよヒューザ兄ちゃん!!」
突然の爆音と閃光に、慌てて駆け付けた現場監督から叱責が入る。
「いやだってコイツがだな!?」
まだ年端もいかない少女を前に、壮麗なる剣客はすっかり形無しである。
その様子にやれやれと頭を振りながら、テキパキ作業を進めるマイなのであった。
そしていよいよ残るはお好み焼き屋台の解体のみと相成って、ヒューザが作業にストップをかける。
皆が首を傾げる中、大きな鉄板の前にヒューザとリベリオが仁王立つ。
借り物なのだろう、ピンクの花柄のエプロンが何とも不釣り合いだがされども良く似合っている。
「思いのほか大勢集まっちまったがまぁ、何とかなるだろ」
「フッフッフ、俺様の速さについてこれるかニャ?」「片ヒゲ焦がした無様な面構えでよく吠える」
「それは貴様がッ!食材調達で疲れた俺様を労るどころかウェルダンに仕上げてくれやがったせいだニャァ!!」
絶対に許さないニャと息巻くリベリオを置き去りに、ヒューザは剣の代わりに大きなヘラを握り、鉄板の上に広げた麺を炒めていく。
具材はイカにタコ、そして細かく刻んだ油揚げ。
どろりとしたソースを垂らし、麺全体に馴染ませたら、軽くヘラで押し潰すようにし底面をカリッとさせる。
「よし、こっちは仕上がったぞ!」
「遅すぎてあくびが出たニャ!」
「ぬかせ!」
鰹節を混ぜ込んだ生地に、たっぷりのキャベツと天かす、あとは刻んだ紅生姜を少々。
ヒューザの調理した焼きそばを載せたら薄くスライスした豚肉を敷き詰め、再び生地で蓋をして、しばし焼き上げればモダン焼きの完成である。
続く