夏です!
海です!!
ユクです!!!
イズミさんから何の説明もないままに離島へ連れ出され、とりあえず水着に着替えて何枚か写真を撮られました。
はたして何に使われるのか、不安しかありません。
というか、オガデスの新作なので、私が着ても胸……いえ、なんでもないです。
せっかくの海なのだ。
イズミもまた、ユクとおそろいの水着に身を包んでいる。
白のシンプルなチューブトップビキニ、その上にまとうノースリーブのラッシュガードとゆったりくるぶしまでも至るパレオは、まるで海を切り取ったように青から白に至るグラデーションに染まり、実に涼やかである。
そして、何がとは言わないが、ユクとは対照的に、はち切れんばかりであった。
「さて。この辺にいると思ったんだけどなぁ」
不安と不満、そして絶望を隠そうともせず体育座りで遠く彼方の虚空を見つめて微動だにしないユクの隣で、イズミはビーチをぐるりと見渡す。
その片手に持つココナッツをくり抜いて作られた器には、黄色い見目も爽やかなピニャコラーダが満ちる。
不思議なことに、あおるは同じロングカクテルでありながらも、かたやパイナップルの切ないほどの酸味、かたやココナッツミルクの胸躍る甘み、ホワイトラムの豊かな香りが鼻に抜けるとともに広がる味わいには、両者の間で大きな隔たりがあった。
そんな悲哀はともかくとして、さんさんと照る太陽に、宝石のような青をたたえる海、そしてどこまでも透き通るような蒼天。
最高のバカンス日和である。
が、勿論、ひと夏のアバンチュールの為に遥々やってきた訳では無い。
またしても何も知らないユクをよそに、ビーチを一巡りしてこようかとイズミが踵を返した途端、浜辺に大きな砂柱が上がっる。
天より舞い降り地を抉るまで深々と、鋸のような凶悪な3本爪が振り下ろされたのだ。
途端に湧き上がる阿鼻叫喚を掻き分け辿り着けば、魔物ながら場に合わせてか刺激的なブーメランパンツを惜しげもなく披露する獣人が、二の腕あたりまで砂浜に深々と爪を突き立てて逆立っている。
「何あいつ……リカント?でもあの姿は……」
敵は確かに人の身体に狼の頭を据えている。
しかし、見事に鍛え上げられた逆三角形の身体、更には両腕に爪を装備したスタイルは、ユクの記憶に例を見ない。
海水浴客が逃げ出して、なお残る2人にぎょろりと目玉が向く。
空いていた右腕で砂浜を殴り、左腕を引き抜くのみならず高く舞い上がる。
そして凶悪な牙の覗く口からよだれを棚引き、爪を振りかぶってイズミとユクを目掛けて急降下する。
「……ヨコセ…カギ、テンマノ、カギィッ!!」
「こっちもそれを探しに来てんだっての!!」
「何それ!?聞いてない!!」
自重に落下の加速も載せた重い初撃を、イズミは鋼糸を編み込んだ鞭をビンと張り盾と変えて受け逸らす。
しかし武闘家の妙技タイガークローは電光石火の三連撃。
身を捩り、掬い上げるように下段から鳩尾を目掛けた二撃目が今度はユクに迫る。
「くぅ……っ!!」
抜刀は間に合わぬ、鞘のままに刀を盾として辛くも受け止めたが、ユクの身は敵の振り抜くままに大きく吹き飛んだ。
危険な場所とは知りながら、連れていっても問題ないと勝手に見込んだ相手だ、イズミの意識はユクの窮地にも途切れず敵に注力されており、続く三撃目、わずかに頬を裂かれるも、鋭く突き出された右の爪を身体を反らして回避する。
不安定な体勢ながら脇腹目掛けて反撃の鞭をしならせるも、襲撃者は軽々とバク転を繰り返して瞬く間に長大な射程圏内から逃げ果せ、鞭は虚しく空を切った。 ~続く~