「……はい!時間です。エントリーNO.9、ずっきんこさん、ありがとうございました!!え~、うん、何とも形容しがたい……踊り……ですかね……うん、とにかくありがとう!皆さん盛大な拍手を!!!」
「……う……んぅ……」
まばらな拍手喝采なれど、揺り起こされたユクはうっすらと目を開く。
「……んたるぶじょく!!びをりかいできぬやばんじんめ!!!」
「はいはい かえりましょう」
「はい おじかんですから」
同じ鈍色の不思議なスーツを身に纏う付き人に両脇からそれぞれがっちり抱え上げられ、引き摺られるように目の前を通り過ぎていくドワーフと思しき姿に何処か見覚えがあるような気もするが、深い夢から醒めたばかりのように頭がしゃっきりせず、二度三度となく僅かな瞬きを繰り返し、再び頭を垂れる。
「お次はエントリーNO.10!フェイスベールに隠された微笑みは値千金!!今宵、私のタロットがアナタの運命に赤青つけます!神秘の占い師、ユク!!どうぞステージへ!!!」
「……んがッ!?わ、私!?」
今度こそ完膚なきまでにユクを叩き起こしたリングアナウンスを、イズミは浜辺の特設ステージから少し離れた海の家のカウンター席で耳にしていた。
今の文面は、イズミが水着コンテストでユクを無断エントリーした折に提出したものと一致する。
「ふぅん。そういうところはリンクしているわけか」かといって、魔物の入り混じり夏に興じる目の前の光景は、まさしく夢の世界に相応しい混沌たる様相を呈していた。
間違いなく、世界移動は為ったのだ。
「はいお待ちどおさん!熱いから気をつけるんやで!」
海の家は大盛況であるが、注文からものの数分で品は届いた。
テキパキという言葉に3段階くらいはバイキルトとピオリムを重ね掛けた働きぶりを見せるプクリポの女主人の手腕に、ただただ感嘆する他ない。
すうっと湯気を吸い込めば、唐辛子の刺激が脳に染み渡る。
具材はチャーシューにネギ、もやしとメンマ。
存分に辛さを楽しみたいのだ、煮卵という安易な逃げ道を用意されていないところが逆に好感を持てる。
ふと目を向けた先、呼ばれてつられてステージに上がってしまい、ひしめく観客に目を白黒させているユクの様子もまた何とも言えないスパイスだ。
太陽のような辛味噌スープの鮮烈な朱を掻き分け、麺を引き摺り上げた。
豚骨ラーメンに代表される細麺の採用は、一番には調理時間の短縮が目論見であろうが、結果としてスープがよく絡み、最適なチョイスとなっている。
咳き込まぬよう細心の注意を払ってズッとすすれば、まるで紙ヤスリが駆け抜けたようなひりつきと共に口の中で加減を知らない真夏が爆ぜた。
「ん~~~っ、これよこれ!しっかし、屋台で出すクオリティじゃないよまったく」
是非ともエスコーダ商会の事務所近くに実店舗を構えてもらいたい。
ただ辛いだけでなく、合間にしっかり味噌の深みと小麦の甘さが顔を覗かせ、尋常ではなく唇が痺れているが箸は全く止まる気配がなく、そのままに完食まで漕ぎ着いてしまった。
「さぁて、あの3人も探さなきゃだし、とりあえずユクと合流しますかね。おばちゃん、おあいそ~!!」夢の世界でもゴールドは共通で助かった。
お釣りは要らぬと気持ちを添えて離れると、半ばもうやけくそ気味にタロットカードでジャグリングを始めているステージ上のユクの方へ、大きく手を振るイズミなのであった。
~続く~