「ぐっ!?」
刹那に距離を詰められ、その一太刀を受けざるを得なかった。
実直を絵に描いたようだったブロードソードもまた、使い手の姿同様、長く幅広に、首を刈る鎌のような残忍な曲線を重ねた歪な刀身へ変貌を遂げている。
いなりの倍ほどの体躯から真っ直ぐに振り降ろされたその一撃の重さに、二刀交差し受け止めるもいなりは片膝をつかされた。
押し負ける前に何とか逸らし、大剣が地を割る暇に反撃に出る。
瞬きよりも早く鞘に収めてからの抜き撃ち。
それはけして自惚れでなく、敵の知覚を許さぬ速度の抜刀であったがしかし、いつの間にか宙に浮く大剣に阻まれる。
「……言い忘れましたが、私はまだ父に比べ未熟。その魔幻の剣も同様です」
盾となった大剣はジルドラーナが握るものと同じシルエットながら強度はなく、いなりの一閃の前に容易く両断される。
しかしその切断面から光が漏れ出て、見る間に明るさを増していなりの視界を埋め尽くしていった。
「それ故、父のように爆嵐剣の技を自在に操れませんが、剣を破壊すれば、そのようになります」
ジルドラーナがゆっくりと話しきる前には、魔幻の剣が巻き起こした爆発に飲まれ、いなりの身体は大きく吹き飛ばされていた。
あわや虚空に投げ出されるかという寸前、いなりは見えない壁に強かに叩き付けられ、ズルリと滑り落ちて倒れ伏す。
「ご高……説……どうも」
全身が衝突の衝撃で痺れ、着物は彼方此方が焼け焦げて煙が昇る。
意識を手放してしまえたら、どんなに楽か。
「……立ちますか」
「当然」
目を見れば分かる。
その身を奮い立たせたのは、生への執着ではない。
負けられない。
光に焼かれてまだ白んだ瞳が、やかましいほどにそう叫んでいる。
今、目の前に立つはジルドラーナだが、しかし彼女などいなりの眼中にはない。
いなりには、辿り着かねばならない境地がある。
追い付き、追い越さねばならない背中が、はっきりと見えている。
故に、この一戦、勝って当たり前なのだ。
「………」
だが、そんな覚悟を見せつけられたとて、ジルドラーナとしても退けぬ。
砕けた魔幻の剣を再び召喚し、4本の剣を身の周りに踊らせる。
魔幻の剣がくるりと向きを変え矢のように放たれるのと、いなりが駆け出すのはほぼ同時であった。
打開策を講じる時間は無かったと考えるが、さりとて、破れかぶれに動く敵ではない。
ジルドラーナは左腕をかかげ、慎重に魔幻の剣を操る。
微に入り細に入り、さながら楽団を指揮するように、指先の動きに合わせてそれぞれ異なる複雑な軌道を描き、いなりを等距離で取り囲む。
やがてぐっと拳をかためれば、魔幻の剣は四方から一斉に襲いかかった。
続く