第6章 その1
ここは、とある小国。
王の間にひとりの兵士が飛び込んで来た。
「陛下! 大変です! かの古代遺跡を調査中、内部より邪悪なる者が復活しました! 奴らは魔物どもを操り、もはや我が国も壊滅状態です!」
見れば全身が傷だらけ、まさに瀕死といった様子の兵士であった。
「このままでは世界はやがて奴らに滅ぼされてしまいます! どうかお力をお貸しください!」
傷ついた兵士は命からがら言い残しその場に倒れ込んでしまった。
国王は立ち上がり、救護兵を呼ぶと、その手負いの兵士を運ばせた。
そして、そばに控えていた王子に向け、
「ふむ。聞いたであろう、我が息子よ。ついにそなたの出番が来たようだ」
国王と王子――、親子の間にしばし沈黙が訪れる。
何かを確認するかのように国王は王子の瞳をジッと見つめた。
その眼差しは遥か彼方、明日を見据えているようでいて、熱く燃える闘志の炎とも慈悲深き暖かな陽射しにも見えた。彼もまたその目をジッとそらさずにいる。
「王子よ、これまでに鍛えたその力で邪悪なる者たちを打ち倒し、この世に平和を取り戻して来るが良い」
ああ、ついに我が子の巣立つ時がやって来たのだ! 今はただ信じるのみ。例え傷つき挫けようとも、手を貸すことなく乗り越えてみせよと、ただ遠くから見守るのだ。そしていつかまた一回り大きくなった姿にただ、こう言うのだ、おかえり、と。
やがて――、王子はこくり、と頷いた。
「さぁ旅立つ覚悟が出来たのなら私についてまいれ!」
国王は勇ましく言い放つと、一足先に階下へと下りて行った。
※二時間後
だが! おうじは
いまだに やってこない!
国王は階段の下で、ずーっと待っていた。
「うをおおおい! なんで来ないのーッ?」
おうさまの さけびが
こだまする!
「ええええッ、なにしてンのアイツぅッ? なんかさっき、こくり、って、なんつーの、こう……イイ感じに? うなづいてたじゃんかよぉーッ!」
「へ、陛下、ご乱心を!」
そばにいた兵士隊長である女騎士が慌てて国王をなだめに近寄った。
「ちょぉ、もぉいいよ! お前、アイツのこと連れ戻して来いよぉ!」
「はっ、ただちにッ」
国王の指示を受け女騎士は階段を駆け上がって行った。
ふたたび王の間だ。
女騎士は近くの兵に尋ねた。
「おい貴様、王子はどこだッ?」
「はっ、王子でしたら上へ戻られましたけど」
「なにぃ! 王子ッ! 王子~ぃッ!」
すぐさま階段を駆け上がる女騎士。
それから各部屋を覗いて回ったがどこにも王子の姿は見当たらないでいた。
そしてついに城の最上階である見張り塔にまでたどり着く。
するとそこにはひとりの少年、――王子が手すりに身を乗り出していた。
女騎士は叫んだ。
「王子ッ! なにをしているのです? 陛下がお待ちですよ!」
「なんだ、“ねぇや”か。ちょっと待ってね。今いいところなんだ」
「何を呑気に海なんか眺めてるんです? 旅立ちのときなんですよ!」
「あー……うん、その話ねぇ。うーん。ねぇ、それってホントにぼくが行かなきゃダメなの?」
「そりゃ王子が行かなきゃダメでしょうが。陛下がお決めになったことなのですよ!」
「父上が決めたから? え、それってなんで? ぼくなんかまだ未成年だよ? そんなの大人のヒトたちでやればいいじゃん。しかも、ぼくひとりで旅立たせようとしてたよね? それって無茶じゃないの?
てゆーかさ、ぼくの意思は無視なの? いくら王様だからって人の自由を奪う権限があっていいものなの? それにぼく、別に戦いなんかしたくないんだけど? あと、古代遺跡調査って大人たちが勝手に始めたことだよね?
邪悪なる者が復活って、たぶんどーせ人間側がちょっかい出して目覚めさせたんでしょ? だから向こうは怒って暴れてるんだよね?
それって自業自得じゃん。こっちが悪いのに謝りもせずに武力で解決させようってのは、ヒトとしてどーなの?」
「あんたさっき解かり合ってたでしょーがぁあああッ! 陛下とぉ! 目と目でぇ!」
おんなきしの さけびが
こだまする!
「あと、――長ぇよッ!」
「おぉぅ……いきなりのタメぐち。……これでも王子であるぼくに対して」
「うるっさい! 何を今さら! こっちはあんたがハイハイしてる頃から子守りしてたんじゃーっ!」
先ほど王子は女騎士を“ねぇや”と呼んでいたが、それはまるで本当の姉弟であるかのような二人であった。
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/