「アゴですか・・・。」
うな院長はカルテに目を通しながらため息をついた。
「どうにかならんもんでしょうか?」
患者としてやってきたオーガの男性も自身のアゴをなでながらため息をついた。
しゃくれに悩みここを訪れたというのだがいかんせん分野が違った。
「最近メギストリスで美容整形が盛んになってきたのでそこに紹介状を書きます。そちらで診てもらってください・・・。」
手早く紹介状を書き終えると男性に手渡した。
「ありがとうございますっ!」
オーガの男性は嬉々として診察室から出て行った。
「ふぅ~・・・。」
うなはコーヒーをすすりながら今日訪れたウェディのカップルのことを思い出していた。
「はぁっ!?」
うなはすっとんきょうな声を思わず上げてしまった。
急患だと騒ぎ立てるので急いで診察してみたら失敗したから薬をくれという内容であった。
「失敗?」
最初はなんのことかわからなかった。
ウェディの青年はちょっと言いにくそうに、
「えっと、だからその・・・ちょっと失敗しちゃったんで避妊薬を・・・。」
傍らで座っている女の子はもじもじしながら顔を真っ赤に染めている。
あ~ なるほど、そういうことね。
うなはため息をつきつつ机に向かった。
「・・・薬は出します、望まない妊娠で不幸になることはないですからね。ですが勢いにまかせる前に事前にちゃんと避妊をですねぇ・・・。」
クドクドと説教せずにはいられなかった。そんなことで診療時間外に急患と騒いで来るなんてイマドキの若い連中ときたら・・・。
彼らには処方箋を手渡してさっさとお引取り願った。今思い出してもイライラする。
「ふぅ~」
今日何度目か知れないため息がまたこぼれた。
「ほっほっほっ、今日はずいぶんとため息が多いですなぁ。」
待合室でお茶を飲んでいたドワーフのおじいちゃんが語りかけてきた。この閑古鳥が鳴く診療所の貴重な常連さんである。
「いや、最近ロクな患者がこないなぁ~って・・・。」
患者が来ない時はこのおじいちゃんと世間話をしているのがほとんどだ。
おじいちゃんはお茶をすすりながら、
「そういえば酒場に求人広告を出したと聞きましてな。」
「ええ、やっぱり助手の一人くらいいた方がいいかなぁって。」
一応スタッフ募集の広告を出したもののたいして期待はしていなかった、こんなさえない診療所に働きに出て来てくれる人がいるのかと正直思ってはいない。
いつものように常連さんと談話していると、
ピンポ~ン
診療時間外にも関わらず診療所のベルが鳴り響いた。
(続く)