カズコに内緒で新たな求人を出してからしばらく経ったある日、
ピンポ~ン
診察終了時刻間際の夕刻に来客が現れた。
「酒場の求人を見てきたんだけど・・・。」
「あら先生、人員を増やすんですか?」
カズコが意外そうに聞いてきた。
「え・・・まぁ最近ぼちぼち忙しくなってきたし、カズコさんお茶だしして後はもう上がっていいよ。」
まさか本人が原因で増やすなんてことは言えないのでカズコにお茶を出させた後は席を外してもらった。
改めて来客との面接が始まった。
若いウェディだ、しかもすごい美人。浅葱色のロングヘアはサラサラと肩に流れアイスブルーの瞳にほっそりと均整のとれた中性的な顔立ち。イスに座って足を組んでいる姿は様になっている。しかし・・・。
「男性ですよね・・・?」
「そうだけど、何か?」
一見パッと見女性だと思われたが、黒いゴシックコートを着こなしている。平らな胸元が膨らんでいたら間違いなく女性そのものであろう。
「いや、受付募集でまさか男性が来るなんて思ってなかったので。」
ハハハ・・・と引きつったような笑いを浮かべるうなに対し、
「別に性別のことなんて書いてなかったけど?」
おもむろに求人のコピーを見せ付けられた。
「う・・・。」
確かにささやかに容姿端麗とは書いてあるものの性別のことに関しては書かれていなかった。
考えてもいなかったな・・・。
受付のイメージが『女性』という先入観がそもそもの間違いだったのだ。
自分の不注意に反省しつつも面接を続けた。
「お名前はカイン・オルトールさんですね?」
「・・・カオル。」
「え?」
「カオルでいいよ、巷じゃそう呼ばれてる。」
「は、はぁ・・・。ではカオルさん、ここで働きたいと思った動機は・・・。」
「その前に一服いいかな?」
カオルがけだるげに言ってきた。
「ど、どうぞ・・・。」
うなは来客用の灰皿を差し出した。
これって面接なんだよね・・・?
雇い主側にも関わらずすっかりカオルのペースに飲まれていた。
カオルはどこからかキセルを取り出し火をつけゆっくりと煙を吸い始めた。
うわ~、古風・・・。
うなは以前カミハルムイでの学会のときにそのキセルを見かけたことがあった。古きよき異文化をこの青年がやっているのを見るとなんだか不思議な感じがしてくる。
カオルはタバコを堪能したあと、ゆっくりと紫煙を吐き出し話始めた。
「・・・別にお金に困ってるんじゃないけど、親が『少しは世間を勉強してこい!』ってうるさくってさぁ、仕方ないからあんまり忙しくなさそうな場所を探してたらここがあったってわけ。」
カオルはさも面白くもなさそうに言った。
「ああ、でもちゃんと仕事はやるよ、こう見えて英才教育で結構色々叩き込まれたからね。」
うなは内心頭を抱えた、なんでうちの診療所にはこんなクセのあるやつばっかりくるんだ・・・。
でも基本仕事さえちゃんとしてくれれば問題はない、見たところ性別はともかくすごい美形ではあるしカズコと同じ・・・というわけではなさそうだ。
普通に受付をする分には問題ないだろう。
「まぁ、こちらとしてはちゃんとお仕事してくれれば問題ありません。明日からお願いできますか?あとそれともう一つ・・・。」
うなはカオルを見据えて人差し指を指した。
「明日から病院内では禁煙だよっ!」
カオルはニヤリと妖艶な笑みを浮かべた。
「りょ~かい、院長♪」
アストルティア診療所 現在 ドワーフ院長1 オネェオーガ1 不思議系ウェディ1
(続く)