「お大事にどうぞ~。」
受付の患者をカオルは手際よくさばいていく。
面接の時は黒いゴシックコートをまとっていたが受付で働く時は病院らしく真理のローブを羽織っていた(ちなみにカズコは月のローブ)
カオルがこの病院で働き始めて早数日、キレイな人が受付にいるという口コミで以前とは比べ物にならないくらい忙しくなっていた。
「カ、カオルさんっ!今度一緒に食事でもどうですか!?」
と男性患者に言われれば、
「ふふっ、どこかいいとこ知ってる?」
と返し、治療の完了した女の子の患者に対しては、
「どこかまた悪くなったらすぐおいで・・・。」
耳元で囁かれて女の子はうっとりしながらハイと答えて病院をあとにする始末。
うなはう~むと唸った、忙しくなるのは構わないがどうでもいい理由で来院する患者が増えた気がする・・・。
うなは新たな問題に悩んでいた。
新たな問題といえば昼休みのこと・・・。
「カズコさ~ん、お・茶♪」
カオルはキセルをくゆらせながらカズコに言った。
「こないだ三ツ星ブレンド豆買ってきたんだ、それ淹れてよ。」
カズコはそのゴツい体をプルプル震わせながら、
「なんでアタシがアンタのために豆挽いて淹れなくちゃならないのよ!アタシ一応先輩よ!?それにタバコはやめなさいっていつも言ってるでしょ!!!」
カオルは灰皿にキセルをコンコンやりながらフンと鼻を鳴らした。
「別に休憩室ならいいじゃん、それにカズコさんが淹れてくれた方がおいしいんだもん。」
まったくアンタって子は・・・。ブツブツ言いながらもカズコは豆を挽いていつの間にか恒例になりつつある『お昼のお茶会』の準備を始める。
カオルはカズコのあしらいがわかっているな・・・。
うなはカオルの順応性に感心していた。
カズコはどちらかといえばガッシリタイプの男性がタイプのようで、カオルの中性的な美貌にはあまり興味はないようだ。
むしろ、 ちょっとキレイな顔だからって調子に乗るんじゃないわよっ!!
といったライバル心の方が勝っている。
うなは室内飼いのタラコにもおやつを与えながらここ数日二人のやり取りを見守っていた。
仲が悪いかというとそうでもない、結構楽しそうに二人で話ているのは見かける。
「そういえば院長。」
カズコの焼いたふあふあケーキをほうばっていたカオルが口の端についたクリームを指ですくってなめ取りながらうなに尋ねた。
「今度薬剤師募集するんだって?」
「うん、処方箋は他の薬局に頼んでたんだけどやっぱりうちで直接出した方が患者さんの負担も少ないかなぁって。最近患者さん増えてきたしね。」
カオルは耳ヒレについたほしくずのピアスを指ではじきながら、
「あ~あ、もう少しラクな診療所だと思ってたんだけどなぁ~。」
と、ぼやく一方カズコは バカ言ってるんじゃないのと とカオルの背中をバンと叩く。
・・・今度はまともな人がきてくれるといいな・・・。
うな院長の願いは果たしてどのようになるのかはこの時はまだ誰も知る由もなかった。
(続く)