拝啓 オカアサマ
もうあれは何十年も前になるでしょうか
あの頃はいつの間にやらワタシの傍にたたずんでいたアクマと必死で戦っていましたね
お医者サマに 就学できれば成人まで生きられる と言われた時オカアサマは必死になってワタシの隣にたたずむアクマと戦っておられました
やがてワタシも成長し、時折きまぐれに顔をのぞかせるアクマと共存しながらワタシは今日までの生を勝ち取ることができました
ワタシが結婚し、子供が生まれた時、オカアサマは あの弱かった子が子供を産めるようになるなんて とワタシに話してくれましたね
感無量
オカアサマはアクマに勝利したのです
ワタシの中のアクマは完全に消えたわけではないけれど、悪さをすることもなくなりました
ああ でもオカアサマ
アクマは別のカタチで今度はワタシを苦しめるのです
アクマはこともあろうにワタシの子供に牙を向けたのです
あの白い部屋の白い天井を見つめる日々を今度は我が子が味わうのです
集中治療室の中、子供が管に繋がれるのを見てこれなら自分が苦しんでいた日々の方がずっとマシだとオカアサマにもらしたことがありましたね
そういうものよ
オカアサマはワタシに言いましたね
ああ オカアサマ
今度はワタシが戦う番なのですね
でもダイジョウブ
ワタシはアクマとの戦い方を知っている
オカアサマが長年アクマと戦ってくれたおかげでワタシはそのすべを学びました
眠っている子供を見つめワタシは囁きます
ダイジョウブ、ワタシはオカアサンなんだからちゃんと守れる、アクマを追い払ってアゲル・・・
ママもパパもアクマを近づけさせないからね・・・
ああ オカアサマ
ワタシはこのときアナタの気持ちを初めて知りました
こんなにもつらい思いをアナタはしていたのですね
でもダイジョウブ
ワタシはアナタに注がれた愛をそのまま子供にも注ごうと思います
生きる原動力は間違いなく他者から注がれる愛によるものだとこの時初めて知ったからです