第1章 突然の着信
冬の朝の空気はピリリと冷たく、雪に覆われた山が私を呼んでいる。今日はスノーボードの初滑りだ。目覚まし時計が鳴るより早く起き、板とブーツをバッグに詰め、厚手のジャケットを羽織って準備を整えた。朝の静けさを破ったのはスマホの着信音。画面には「マキちゃん(仮)」の名前が表示されている。高校時代からの数少ない友人の一人で、今も時折連絡を取る仲だ。
「何だろう、こんな早朝に」と思いつつ、電話を取る。
私「うぃ(´_ゝ`)」
寝ぼけた声が自分でも分かる。
マキ「今日ご飯行くよ」
と明るい声が返ってきた。
私「ふぇ?」
どうやら頭の回転が追い付いていないようだ。
マキ「今日、ご飯、行く、OK?」
と何故か片言のマキ。
私「今日、スノボ、行く、だから、No!……ってか、こっち帰ってきてるの!?」
一気に目が覚めた。マキちゃんは10年前に結婚して県外に引っ越し、今は夫と子どもと3人で暮らしているはずだ。地元に戻るなんて、聞いていない。
詳しく話を聞くと、物価の高騰で生活は何とか成り立っているものの、毎月貯金できる額が以前に比べ減っているのが気がかりで、スキルアップのために資格の勉強を始めたのだという。そこで、より集中できる実家に一時的に戻ることにしたらしい。偶然にも、今日は地元にいる最後の日で、明日にはまた県外へ戻る予定だという。
「ってことで、よろしくね」と、マキちゃん。
相変わらずの軽い調子だが、彼女の声にはどこか懐かしい響きがあった。
初滑りか、再会か。どちらも私にとって特別だ。悩む暇はない。人生の大事な選択肢は、こうして突然やってくるものだ。
第2章へ続く…