「もしも自分の子供がいじめられたら…」
そんなおセンチな親心を胸に抱いていたのは、後輩だった。
飲みの席でビール片手に後輩が切り出した話──
「実はうちの子……いじめられる側じゃなくて、いじめる側だったんですよ」
え、そっち!?
しかも奥さんが怪しい手紙のやりとりを見つけて、事が大事になる前にストップ!
先生にもバレず、何とか幕引きに成功したとのこと。
さすが我が後輩、家庭内監視体制バッチリである。
でもまあ、その話を聞いた瞬間、私の脳内メモリーがカタカタと動き出した。
開いた引き出しに詰まっていたのは──
私の中学時代の黒歴史。
あれは私が中学生になりたての頃。
上下関係なんて糞喰らえ!なわんぱくガールだった私は、どうやら上級生に目をつけられていたらしい。
だが当の本人は、相手の感情に鈍感なことで定評のある私。
学校生活をのほほんと満喫しておりました。
そんなある日、地元のお祭りにて──
私は屋台で焼きそばをゲットし、口いっぱいに幸せを頬張っていた。
と、そこに突然の熱気。
視線を上げると、“怖い先輩”として有名な女の先輩が、鬼の形相で私を睨んでいた。
だが私はひるまない。いや、気づいてすらいない。
むしろ──
「面白い顔!!」
……うん、今思い返してもこれはアウト。
すると案の定、先輩の怒りゲージMAX。
私の右手から焼きそば入りの袋を奪い取り──
ブン投げてきた。私の顔に向かって。
──クリーンヒット。
焼きそばは宙を舞い、地面に散乱。
通りすがりの大人が駆け寄ってきて「大丈夫か!?」と心配してくれたけど、私の返事はこうだった。
「うん。でも……焼きそばが……焼きそばが……」
顔より焼きそばの心配をする少女。私である。
怒りと悔しさと焼きそばの恨みを胸に、私は帰宅後に復讐プランを練った。
そう、本気のやつである。
そして翌日──
私はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら登校。
肩にはテニスのラケットカバー……中にはラケット型に切った発泡スチロールを仕込んでいた。
放課後、校舎裏で待ち伏せ。
ついに先輩が登場──
「きた…」
私は仁王立ちで目の前に立ちふさがり、ラケットカバーを抜刀よろしく構える。
そして……
バチィィィン!!!!
衝撃音だけが虚しく響き渡り、先輩はその場に尻もち。
なんと、すすり泣き始めた。
さらに……下からなにかが……
(これは先輩の名誉のため、墓まで持っていくことにする)
もちろんその後、先生にガッツリ怒られた。
でも、それ以来先輩からは一切干渉されず、むしろ「ヤベー奴」として学校内で恐れられる存在に。
私はというと……それなりに楽しく生きていた。
ちなみにこれは後日談だが、聞いた話によると、先輩はラケットカバーにラケットが入っていると思っていたらしく、振り下ろされた瞬間死んだと思ったらしい。
計画通り(。-`ω-)ドヤ
後輩が「自分の子がいじめっ子だった」と涙目で話す横で、
私が「発泡スチロールで仕返しした話」を得意げに語る光景は、なかなかに地獄だったらしい。
それでも、焼きそばを粗末にする奴には天罰を。
それが私の正義である。
おわり