※『2018/5/5』の日誌に書いた分の続きです。
こちらは1ユーザー、1読者の妄想作品です。
公式の作品と齟齬があると思われます。
笑って許してください!
◆◆◆『怨楽のしらべ2 怪奇! 森の音楽会』◆◆◆
夢幻の森南端。
イナミナ街道とを隔てる山岳がその威容を存分に発揮する辺りでは、最近モンスター達が音楽を奏でているとの噂があった。
「どうやら演奏会があるのは本当のようだな」
大きな耳に手を添えてドワ男は呟く。
「本当ですか! やって来たかいがありましたわ」
興奮気味なマルテラトの瞳が、日差しを浴びた硝子細工のように煌く。
「なんの楽器でしょうか? やはり、人とは違う特別な何かが!?」
「いや、そこまでは……」
矢継ぎ早に問われ一歩後ずさるドワ男に気づいて、マルテラトも顔を赤くして身を引く。
「そんなにモンスターの音楽が楽しみなのかー?」
不思議な奴だなーとクレイに言われてマルテラトは唇を噛む。
「わたしはもっと、上手くなりたいのです。その為にもまだ知らぬ音を聞きたいのです」
答える声には焦りが色濃く滲んでいて、クレイとドワ男は思わず顔を見合わせる。
「こほん。とにかくここからは静かに進むからな。相手は魔物だ。ただの音楽会とは限らない」
真顔で口元に指を立てるドワ男に、今度は緊張から喉を鳴らしてマルテラトがうなずく。
「では、いーくぜー」
野生の獣のように身を低くしたクレイが、一行を先導する。
次第に、深い森の中に似つかわしくない大音量が全員の耳に届き始める。
「こりゃあ、太鼓じゃのう」
ドンドンと鼓面の革を打つ重く深い音色に、緩急をつけたふちを打つ甲高い音が交じり合う。
恐怖に慄く心臓の鼓動のような、激しい旋律に導かれるように、手を打ち鳴らし、足が地を打つ音が間近に迫る。
巨木の陰に潜みながら、様子を窺った四人の瞳には無数の魔物達が踊り狂う姿を映し出される。
ナスビナーラ、くさった死体、グリゴリダンス…エルトナ大陸ではよく見る魔物達が目を血走らせ、ぶつかり合いながら踊り続けるその中心から、太鼓の音が響き続ける。
(「こ、こんな…」)
それは音楽と呼ぶにはあまりに猟奇的な光景だった。
幼い少女が覗き見るには、あまりにおぞましい儀式だった。
「(静かにここを離れるぞ)」
小さく耳打ちしたドワ男の言葉に頷いて踵を返そうとしたマルテラトだが、緊張しきった身体はうまく動かずばたんと転んでしまう。
「この子はワシが抱えちゃる! そっちを頼むぞ!!」
一瞬の迷いもなく太い腕でマルテラトを抱え込み、シャクラが空いた手で幻魔召喚の印を描くのと同時に、太鼓が一際大きく鳴り響く。
「うっひゃあ! 来たぞー! クレイ様のムチさばき見せてやる!」
それを合図に魔物たちは雪崩をうって四人に襲い掛かってくる。
「我らが切っ先と叡智よ! 風すら断ち割る鋭さとなれ!」
最前列にクレイが飛び出したのにあわせて、ドワ男が手にした扇で支援の風を巻き起こす。
「待ってました♪ 食らえ超低空地ばしり打ち!!」
通常勢いをつけて跳ね上がった状態から打ち下ろすムチスキルを、獣のように伏せた姿勢から打ち出すクレイ。
迸る稲妻が集団の先頭から次々と後ろに続く魔物達を捕らえていく。
「さすがクレイ・ザ・ビースト。やるな」
地面すれすれから多彩な技を駆使し『泥にまみれた獣』と称されるプクリポの本領発揮である。
「出でませい! カカロン! 上下からの挟み撃ちじゃい!」
クレイの攻撃で魔物達の意識が下方に向いた瞬間、今度は青き幻魔がツララを降らせる。
「即席でうまくやるじゃないか! ノッってきたぁ!」
正面の魔物を打ち崩すとクレイは右手から回りこむ巨大なナスビナーラに相対する。
ビュンと音を立てムチのようにしなる魔物の腕を掻い潜り、足元を狙ってクレイのムチがぐるぐると巻きつきく。
たまらず巨大ナスビナーラの動きが止まり、後に続いた通常のナスビナーラが堰き止められる。
「ナスビの花に舞い踊る蝶も風流というものだな!」
今度はそこにドワ男のアゲハ乱舞が炸裂して、魔物達が倒れていく。
「ぎゃ、逆。逆から回りこまれてます!」
抱えられたまま叫ぶマルテラトにシャクラが応える。
「わかっておるから心配無用ぜよ! バルバルー!」
大剣を持った幻魔と共にシャクラは左側から襲い来るくさった死体達へと突っ走っていく。
「ええええぇぇぇっ!?」
驚愕するマルテラトがふわりと宙に浮く。
「お二人さん、その子は任せたきにのぉ!」
「「マジかー!!」」
ドワ男とクレイが慌ててナイスキャッチする中、幻魔の大剣と天地雷鳴士のスティック(と製作者と持ち主は主張した)が暴風のごとく吹き荒れ、魔物達は気散らされていくのであった。
〔続く〕