◆◆4話 会いに来たんだ◆◆
沈黙を破ったのはスウィ~トだった。
「とにかく! ボクにとってはこうやって顔を合わせられたのは僥倖! ベツゴウさんに会ってみたくて、この仕事を引き受けたんだからね」
意外な言葉に、老オーガは若きドワーフに顔を向ける。
「噂の鉄拳アメが残ってたら分けてもらいたくてね♪」
オーグリード大陸のグレンで親しまれる、拳の形を真似た飴、げんこつアメ。
しかしベツゴウの作ったそれは一線を画す硬度を持ち、もはや鉄拳だと語り草になっていたのをスウィ~トは聞きつけ、ぜひとも味わってみたくなったのだ。
「実食なくして表現無し…そこにはこだわる男」
「他にはこだわってないみたいに言うなし!」
ぺしりとツッコミを入れるスウィ~ト達の様子に、ベツゴウの皺だらけの顔が崩れる。
わずかに笑ったようであった。
「本当に物好きな。さすがに現物はもうないが…、そこの戸棚の奥を漁ってみるがいい、レシピのメモくらい入っておるかもしれ……遠慮がないの…」
言い終わる前に地を這う虫のようにカサカサと戸棚に突撃して、顔を突っ込むスウィ~ト。
思いっきり蜘蛛の巣を引っかけながら、小箱を見つけて意気揚々と戻ってくる。
「おー! すごい! びっしり書き込まれたメモがあれこれと!!」
その元気に当てられたのか、ベツゴウはまた一匙粥を食して、くれてやるとぶっきらぼうに呟く。
「ひゃっほー! って、ん? これは?」
箱の中の一枚を取り出して、スウィ~トは首をかしげる。ほかのメモとは違って、何やら見慣れない文字がそれには書かれていた。
「これは魔法のレシピ? でも、こんなのは見たことない」
魔法のレシピ──。
それは過去の様々な職人達が、後世の人々に自らの技術を残すべく編み出した品々だ。
幾度となく魔界からの侵攻を受け、またアストルティアの民自身も相争い、多くの文明を失ってきた。
その中で消えたいくつもの技術を憂いた賢者が、世界各地のギルドとともに作り出したといわれる魔法のレシピ帳は、研鑽を積んだ者ならばその技と知識を身体に染み込ませる事ができるという。
「クエストの中で、時折持ち帰ってくる冒険者もいるけど…」
アイシスもまじまじと謎のレシピを見つめていると、ベツゴウが言う。
「あー、うーむ…それは、その…残しておいてくれ。ついぞワシの身に染み込むことはなかったが。冒険者になった孫が…初冒険の記念品だからと、贈ってくれたのじゃ」
体調のせいではなく、気恥ずかしさからもごもごと喋るベツゴウの姿に、スウィ~ト達はにんまりとしてしまう。
この一枚のレシピが呼び寄せるモノが、すぐそばに迫っているとも知らずに……。
※ここから雑談
お話の時間としてはソウラの100人突入部隊が動き出す前の話。
大雑把に1~2年前とかかなあとか妄想していたり。