寄り道は甘々の冒険者達の外伝的な何かです。
今回、突入部隊参加者、ライオウさんを題材に、妄想を書きました。
あくまで私個人の二次創作ですので、ご本人さん公認などでありません。ご注意ください。
問題がありましたら修正、削除の対応いたします。
◆◆父と娘と飴玉と◆◆
「た、大変だーおやぶーん!!」
「おやぶんじゃない。頭領だといつも言ってるだろ。まったく、それじゃどこぞの盗賊団みたいじゃねえか」
傭兵団『雷神会』の中でも年若く、新入りの男は、あーいけねぇ!と額に手をやって小さな失敗を悔やみ始める。
「で、なにが大変なんだ?」
「あー! そうでした! ベツゴウの爺さんの家が魔物にぶっ壊されたんでっす!!」
あれこれと過去の失敗に遡って、自省モードに突入しかけた新入りを本来の目的に引き戻してやると、思わぬ言葉が飛び出してきた。
「それで爺さんの方は無事なのか!」
「はい!! そこはジンライさんが、代打で派遣した冒険者がうまく立ち回ったらしいっす!」
「それが聞けてよかったぜ。うちのもんが行けてない時に何かあったなんて事になってたら、一生物の不覚だった」
「はー、そういうもんっすか。確か爺さんはあそこで死ぬつもりなんでしょ? あんまり変わりがない気もしますがねぇ」
雷神会にいる大多数が、斬った張ったの世界で生きてきた者達だ。
ゆえに強者に屠られる事も一つの死として受け入れるしかなかった。この男もそんな一人だったのだ。
「職人一筋に生きてきた爺さんには殺し殺されなんてのは似合わないって話だ。おめぇもそのうち分るだろうよ」
「そんなもんすっかねぇ。あ、ところでおや、じゃなかった頭領! そんな喧嘩にも無縁そうな爺さんがなんで頭領の恩人なんです?」
男の問いにライオウの思考は少しばかり遡る。
あの頃はまだ慣れない父親であった。
今この時まで僅かも曇ることなく続く、愛おしく大切に思う気持ちを持ちながらも、お互いにそれを上手に伝えあえなかった頃。
うえっ…ん、すんっ…うぅ…
さっきまで隣のテーブルで、行儀よく座っていた少女が声を殺して泣いていた。
依頼人に仕事の完了を伝えて、感謝とともに正当な報酬を受け取り、握手をして店の出口へと送り届ける。
いざ大人の話が終わったからと、この店の美味しい物でも食べさせてあげようと、強面の顔に喜色を浮かべたライオウが少女、ライカの元に戻って来た時の衝撃たるや。
不死身の男、鬼神、羅刹、阿修羅、刃と血と死の中を日常としてきた男の心臓が、これほど跳ねあがった事はなかったのではないだろうか?
「ライカ!? どうしたんだ。どこか痛むのか?」
焦りとは裏腹に、冷静な瞳が少女に異常がないかを確認する。外観から危険な兆候は見られない。
額に当てた手からも熱病などを疑う必要はなさそうだ。
ならば、感情の動きが原因!? だが、そんな要素がどこにあった!?
「大丈夫だ。何も怖いことはない。俺の強さは知ってるだろう?」
娘を思う父の声。その言葉にライカはライオウに縋りつく。
「ちが、違うの…」
声を詰まらせるライカの代わりに、しわがれた声が掛けられた。
「優しい子じゃの。その子は怖がってはおらんよ」
「どういう事だ爺さん」
反射的に脅威を警戒して、闘気が膨れ上がるのを押さえつけたライオウの問い。
実力者ほど冷たい汗が流れたであろうそれに、まったく気づかずに老オーガは答えた。
「様子を見ていたが、おまえさん達の話を真剣に聞いておったようでの。幼子の仇討ちを頼んだあの母親の心中を想い、泣いてしまったんじゃとわしは思う」
自分にしがみついた娘の表情は分からなかったが、小さく頷く頭が老人の言葉を肯定していた。
ライカの優しさを改めて知り、危機でない事に安堵してライオウは感謝する。
「かたじけないな爺さん。口を出してくれて助かったよ。俺は雷神会のライオウだ」
「子を持てば誰もが通る道じゃからの。わしは菓子職人のベツゴウだ。そら、お嬢ちゃんも落ち着く頃じゃろう。この飴をやろう」
「ん。あ、ありがとう…ございます」
やっとライオウの胸元から顔を離して、ライカが飴を受け取る。
そんな何気ない出会いだった。
少しばかり言葉を交わし、飴を貰っただけの他愛ない事だ。
だが、その縁こそを『やくざ』のライオウは疎かにしなかった。
それからしばらくしてベツゴウは職人を引退した。
故郷に住むという老オーガのために、家の補修から始まり、その後の生活物資の運搬までを請け負う雷神会の姿勢は、一部の菓子職人達の間では、すっかり義理堅いと評判となっているのだが…。
さて、どう話したものかな。
ライオウは目の前の新入りの顔を見ながら、にやりと恐ろしい顔で笑ったのだった。