DQXの二次創作小説。
◆◆9話 魔法戦士ミャジ◆◆
「あんた達! 助けてえぇくれ!」
村が目前に迫った頃、行く手から上がったのは逃げてきた者達の声であった。
二十人程度のプクリポ達、その先頭にいたのは娘を背負った父親のようだ。
「トロ・リリプ村の人か? 何があった?」
汗を滝のように流し、息を切らせて集まってきた人々は、口々に村に現れた魔物が、大絶壁によじ登り始めたと証言する。
「わしらは逃げてきたが、ハニーハンターの若い衆が何人か、壁を守るんだといっちまった~」
「どうか助けてやってくれろ」
縋りつくように取り囲まれてミャジは内心嘆息した。
言われるまでもなく全力で助ける。
だが真面目な顔をして皆のパニックを鎮めるのはどうにも向かないのだ。
「さっすが蜂蜜の里の皆さん。健脚ですな! よくよくここまで逃げてきました!」
きりっとした顔をミャジが作ろうとした瞬間、スウィ~トがバカみたいな大声を張り上げる。
「さらに選ばれしハニーハンターは、栄養満点過ぎるほどのマッドハニーをいただいている! となればボク達が助けに行くまで必ず無事! 健康! そこの奥様! そうですよね!」
びしりと指を突き付けられたプクリポは、勢いに飲まれて何度も頷く。
「幸運な事にここにいらっしゃるは、かの高名な魔法戦士団員! ほらー、もう安心だ! お嬢ちゃんも泣かずに、このチョコを食べて食べて」
奥様からくるりと身をひるがえして、涙でべしょべしょの少女の口に、一粒のチョコを押し込む。
底抜けに明るい調子と、派手でくるくる目まぐるしいドワ男の動きに、村人のこわばった顔がわずかに緩む。
「この男の言う通りだ。村の事は任せて、皆は慌てずにこのまま避難を。麓の村に着いたら様子を見に戻らずに、我らを待つように」
団長のアーベルクの様子を真似て、ユナティが見れば感涙しそうな真面目な顔でミャジが告げると、リーダー格の男が分ったと強く頷く。
「ではでは! 魔法戦士団とスウィ~トスター☆が村の平和を取り戻してくるからね~!」
「あ、ちゃっかり宣伝はした…」
走り出したミャジに続くアイシスは、最後尾で名乗りを上げるスウィ~トの襟首を引っ掴んで駆ける。
ぐぇっっと聞こえた気がしたが、まあ大丈夫のはずだ。
ちんまりとしたいくつかの畑を抜け、柵を飛び越え、無人の家々の間を縫って大絶壁へと迫るに至り、敵が見える。
壁には群がる蜂をものともせず黒蟷螂の怪物が這い上がっている。
そして眼前には四人のプクリポ達が倒れ、たった一人だけが、怪物達の向かう先を見据えている。
こちらの気配に気づいたのか、一人は振り返る。
紫色のバンダナに、同じ色のマフラー。真っ赤な毛並みのプクリポは、ミャジの服装に目を止めると立て掛けてあった両刃の大斧を担ぎ上げる。
「かぎつけてくるのが早えじゃねえぁ。魔法戦士団様よぉ」
「その顔、手配書で見たわ。仲間を見殺しにして逃げおおせた魔物商人。名をヨッパラッタ!」
「誰が酔っ払いだこら! 俺の名はヨップキッパ様だ!!」
顔を真っ赤にする魔物商人に、てへぺろと舌を出す魔法戦士。
「てめぇ。わざとやってやがんな! 商品ナンバー10のA~G番! まずはこいつらをやっちまうぞ!」
掛け声とともに、大絶壁を蹴ってブラックマンティスが次々と着地してくる。
その数7体。
「魔物商人は、魔物を改造調教して悪用する秘密組織なのよ。油断しないでねお二人さん」
言うが早いかつがえた矢を放ち、最後に着地しようとした一匹を打ち貫き、真下で潰されそうになったプクリポを救う。
「突撃回収する、援護・・・任せる」
腕前を信じたアイシスは抜剣もせずに突入する。
「ボク達もいくぞ♪ アイシスに近づけさせちゃだめだぞ!」
ららっ!!
アイシスの左右に展開したスウィ~トとざらめが、蟷螂を迎え撃つ。
二人目を抱えたアイシスに振り下ろされる蟷螂の鎌の刃が、ざらめの呪文で鈍と化す。
三人目も抱えたところで浴びせかけられる毒液を、スウィ~トのおうぎ舞いが捌き切る。
最後の一人を抱えるところを待ち伏せたのはヨップキッパの大斧だ。
「両手いっぱいにもふもふを抱いて逝っちまいなあ!」
魔物の陰から飛び出し、大上段から振り下ろされる。
額を叩き割る寸前、強烈な金属音が鳴り響き、斧は脇の地面を穿つ。
「馬鹿な! 風切音すらしなかったぞ!?」
斧の側面を打ち付けたのは鏃であった。
「風の理力(ストームフォース)を応用してとことん抵抗を減じた速射スナイプよ。音すら追い越しちゃうわ♪」
自分に切りかかるブラックマンティスの攻撃をかわしながらミャジが笑う。
魔法戦士団所属・・・その意味を知りヨップキッパは一筋の汗を流すのだった。