DQXの二次創作小説。
◆◆11話 遺品◆◆
力強く跳ねて、シロイロの背後を取ろうとするざらめは、突然の動きに気づかない。
音もなく歩いて進行方向に割り込むと、リモニーザはひょいとざらめを掴み上げる。
らら!?
「ざらめ!」
「注意散漫。好機…到来」
「いてぇ!!」
さらに隙を突かれてスウィ~トが連刃で打ち付けられ、盾を取り落とす。
「ふむ、おかしいですわ? どこにあるのやら…」
細い指先をざらめへと沈めて中を探るが魔族は首をかしげる。
周囲で繰り広げられる攻防などどこ吹く風。
「ちくしょうっ。無遠慮に手を突っ込むなよ!」
息を整え痛みを殺し、さんざん舞台稽古でやらされた動きを思い出す。
もともとご先祖様は実戦の中で、大戦争の中で生き抜いた踊り子であり、その動きは伝え続けてきた踊りに息づいている。
落ち着け、基本は身についてるはずなんだ。あの夢のような甘い日から、冒険に出るために真面目に師匠の、親父の修練をこなしたんだ。
ここまでにだって少しずつ場数も踏んできてる。見て、聞いて、感じて…。
盾を取り落とした事が功を奏したのか、スウィ~トの動きが良くなってわずかに安堵するミャジ。
「ずいぶんと甘いものがお好きね魔族さん。蜂蜜の次はその子を誘拐したくなったの?」
「作品に必要な物を求めて来たまでだったのだけれど。この子に出会えたのはまったくの偶然。日頃の行いゆえかしら」
目を回して沈黙したざらめをひとしきり探し終えたのか、リモニーザは眉をハの字にしてミャジとスウィ~トを見比べる。
「やはりそちらのドワーフがお持ちかしら? 大切なレシピなのですけど」
「ボクはスウィ~トスター☆だぞ! 探してたなら名前くらい覚えておけよっと」
螺旋を描くように打ち出された一撃を避けながらの返答に、リモニーザはぺこりと頭を下げた。
「これは失礼。私はリモニーザ・ジラクトン。親しいものはリモなどと呼びます。して、スウィ~トスター☆様、先ほどの問いのお返事は?」
「持ってる! けど渡さない!!」
丁寧な言葉に、はっきりきっぱりと気合を入れて応じる。
「それを手に入れるのに、ベツゴウさんの家をぶっ壊しちゃうし、今もこうやって、ボク達をやっちゃうつもりだし! そんな魔族に渡せってのが、もうぜーーーーたい、無理っ!」
腕をバッテンにして完全拒否のその姿に、リモニーザの表情がムッとする。
「私だけ置いてかれてる気がするけど、スウィ~ト達、因縁もち!?」
「俺様もそんなことは初耳だぜっ!ま、こっちはこっちで楽しくやろうぜ!」
矢を打ち払う勢いでヨップキッパが大きく跳躍して、どすんとミャジの直前に迫る。
大斧があさぎ色の前髪を掠めて、うわぁ!ちょ、あとで揃えるの大変になるじゃない!と文句をつけつつ魔法戦士はバイキルト(筋力強化呪文)を唱える。
「ここまで近づけたなら、今更弓矢の威力があがろうとよぉ」
「魔法戦士団裏奥義っ、ロスウィードくんを本気で怒る時のアスカちゃんぱーんち!!」
「せ、せいけんづきだとぉおっ ぶばぁっ」
まさかの直接打撃が腹部に決まり、口からキラキラとエフェクトを放ち轟沈する魔物商人。
「乙女を怒らせると怖いんだから!」
乙女?とツッコむ者がいない幸せをかみしめながら、つがえた矢をピタリとリモニーザに向ける。
「我々とアストルティアの民がこうなるのは必然ね。でもそのレシピは師匠の遺品。この期は逃せません」
ざらめをそっと地面に下ろし、ずるりと闇からスプーンを取り出す。
いっそコミカルなその楕円形のエッジは研ぎ澄まされた刃のそれだ。
「あっ、いけません。そちらのお相手がいりますね」
ミャジが矢を放つ直前に、今度は足元の闇から頭蓋骨に羽の生えた姿のコープスフライが湧きだしてくる。
「止められた!? ていうかまだ湧いてくるの」
「いきなり三体も貫いておいて…こちらこそショックですわ。ああ、ごめんなさい。うちの家系は首級の飾り付けなどしていましたから…ずいぶん憑り付かれておりまして」
つまりはそれを逆に使役するほどの魔族ってわけね。
軽口を続けて気を引きつつ、この場を切り抜ける妙案に頭を悩ませるミャジ。
だが、シロイロと切り結ぶスウィ~トは別の事を考えていた。
遺品だって? 師匠の? その思い出を探してた? 魔族なのに!?
混乱する頭で考える。どうしてそんな事があり得ないと思い込んでいたんだろう。
あの日、スウィ~ツランドで魔女にもてなされた時、自分は何を感じたのだ?
魔族が何を思い。なにを大事にするかなんて、一度たりとも確かめたこともない!
動きが鈍り、刻まれた肉体が血を流す。
それでも何とか連刃をスティックに絡ませて、まっすぐに立つと口を開いた。