DQX、蒼天のソウラの二次創作です。
独自解釈が行われてます。苦手な方は退避を!
今回も登場しているシグナルさん、レムリヤさん、ムジョウさんの
キャラクター性、セリフ、心情等はすべて勝手に想像してます。
(ご本人からの問題申告など頂ければ対応します)
◆◆◆その後…旅先の再会◆◆◆
「私、実はそれほど幸運の星の元にいるわけではないのです」
困ったように、はにかんだ様に、ふわりと彼女が笑ったのはいつの事だったか…。
占い師の使うタロットカードは広い意味では魔法だ。
しかし一般に魔法と呼ばれるモノとは決定的な違いがあるらしい。
複雑で精緻に構築される魔法の術式は、より強固に正確に編み込んで大きな効果を導き出す。
自らが御してこそ複雑怪奇な事象を顕現させられるのだ。
一方、カードによる効果の術式は、揺らぎを取り入れる事によって恐るべき効果を生み出す。
世界を構築する中でも特大の揺らぎ、すなわち天運を組み込まれた魔法術式。
リスクを負うことが大きな力を発揮する。
俺としては創始者の頭の中身を疑いたくなるような魔法らしい。
「その揺らぎのために、術式の一部としてタロットのデッキを作り、法則に従って手札とするわけです」
彼女は一束のカードを掌に載せて見せ、ちょっとばかり胸を張る。
うまく説明できたと喜んでいる風で、なんだか可愛らしい。
「難しいぞナルさん!アタシはもう頭がこんがらがってきたよっ」
しかし聞いていたレムリヤは頭を抱える。
元はといえば彼女が、強いカードをたくさんポケットに詰めていけば最強じゃないのかと、少年のような瞳で提案したのが、ナルさんのタロットカード講座の始まりだった気がするのだが。
「でも、どれだけ修行しても思う通りにならないなんて厄介だなー」
俺は占い師という職業の危うさをこの時初めて、認識したのかもしれない。
「じゃあ、幸運の女神を掴まえたら占い師は最強っ! て感じかなのか?」
本気で掴まえに行きそうな物言いでシグナルの顔を覗き込んだレムリヤに、彼女は笑う。
「天運は一所に留めては駄目ですよ。誰かのものではなく世界を巡るものです。幸運も、不運も」
そんな風に彼女は言っていた。
ならば今、ナルさんは不運を背負いこんだタイミングだったのか?
「こなくそぉぉぉ!!!」
神殿の立派な柱を思わせるほどの太い足が、頭上から振り下ろされるのを俺は愛用の両手剣で受け止める!
「あの時のレムリヤのハンマーの方がっ! おまえのきったねー足裏よりっ! 重かったっぞ!!」
両足と両腕をバネにして、だいまじんの超重量を跳ね返す。
そんな事はありえないと思ってたのか、そのままずしんと尻もちをついたのは好都合だ。
「全身全霊全力斬り!!!」
盛大にジャンプして愛用の両手剣をだいまじんの額にぶち当てる。
この程度の相手なら、これで終わり。
真っ二つに割かれた頭部がごとんごとんと左右に落ちる。
「大丈夫か? まさか悲鳴の主がナルさんだとは思わなかったぜ。カードの引きでも悪かったのか?」
旅路の途中、聞きつけた悲鳴に思わず飛び込んで助けたのはかつての仲間。
一人でもこのくらいの魔物は対処できる実力者だ。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
にもかかわらず彼女は深々と頭を下げて礼をする。
「え、えーっとナルさん?」
違和感を感じて名を呼ぶと、彼女は顔を上げて困ったように逡巡し、そっと口を開く。
「すいません…どなた様…なのでしょうか?」
ドシャァ。
俺は思わず膝から崩れ落ちていた。
幾たびか命を救われ、その優しさにほんのりと憧れと好意すら抱いていた彼女は、俺の…このムジョウの事を覚えていなかったのだから。
追記。故あってシグナルさんは記憶を失っていた。けして、けっして自分の事だけを忘れたりしたわけではなかったのだ!!