寄り道は甘々の冒険者達の外伝風。
今週分の本編は昨日アップしてます。そちらをお先に。
今回、フツキ&マージン&創作Q&Aを書かれていたシルルさんで妄想!
個人の二次創作です。ご本人の公認などでありません。
問題ありましたら修正、削除いたします。
◆◆調査隊◆◆
「神魔の存在があったのは確かだ」
黒いレザー地服のエルフは、その観察眼だけでなく魔法技術によってこの場所に神魔の残り香を感じ取る。
「マジか。まだ毒が残ってるとかないよな」
その三歩後ろ、白い衣装の男が周辺を窺うが、数人のメギストリス正規兵が警護に立っているだけだ。
「マージンさん、怖い事を言わないでくださいよ! 兵隊さん達が先に来ているわけですから大丈夫じゃないと困ります!」
その隣で、白い毛並みに小さな王冠をかぶったプクリポが当然の指摘を行う。
「シルルの言う通りだ。そもそも本気で危機感を覚えたなら…」
「足を踏み入れてはいないな。今のは会話の潤滑油だ」
にやりと笑う相棒に、フツキは無言を貫く。
怒りや呆れではない。これがお互いの距離感なのだ。
「えーっと、な、仲良くしましょう」
シルルは二人の間でぴょんぴょん跳ねる。
彼が旅路につま弾いたハープの曲調と同じく、その性格は柔らかで優しい。
「すまない。俺達は長く組んでいるせいか必要な言葉が少なくてな」
言いながら這いつくばって謝罪するフツキにシルルが目を回す。
「わあぁ! 土下座なんてぇ!?」
「違う違う。さっそく気になった場所があったようだ」
マージンの否定によく見ると、フツキは地面に耳を当ててから、身を起こすと短く呪文を詠唱。
「すごい。魔力で作られたペンデュラム」
シルルはフツキのおたからさがし(探査特技)がより精度の高いものであると確信する。
「入り口はここだ」
迷いなく数歩進むとフツキは足元を示し、さっそくシルルは周辺を観察する。
「人工物としての手掛かりはないです。ソウチャ神に関する記述は720年ほど前だから、パルカラス黎明期の名残があるはずなんですけど」
歴史の探求者であるシルルは、その知識を見込まれてこの地に来たのだ。
魔族までが関与した数日前の事件。
伝承に残る土地神の迷宮が発見されたとなれば、古代の禁術や破滅的な魔法の品等を狙った可能性もある。
メギストリス王家も放置はできないと判断したゆえである。
「俺もまだまだか」
珍しく落ち込んだ様子を感じて、マージンが相棒の肩をぽんと叩き元気づける。
「いえ。かの時代の風水学的に、この場所に神聖な入口を隠したというのは納得できます。見立ては正確かと」
ただ…とシルルはそこで口ごもる。
「からくりの類がまるでない。完全な地面だ」
「はい。ソウチャ神の力が必要に応じて扉を創るようです」
隠し扉を突破するのとは勝手が違うという事だ。
「相棒。地下に空間があるのは確実だ。通路の確保だけに限定した爆破は?」
可能かと問う瞳に、うむと頷くマージン。
「俺の腕前的にはな…」
爆破を即決しない物言い。
ボムスペシャリスト(そしてボムジャンキー)として知れ渡った男にしては珍しい。
再びフツキの瞳に問われ、マージンは帽子を被り直すと元来た道へと視線を投げかける。
そこにはトロ・リリプの村人達が心配そうに集まっている。
「この爆破で…誰が助けられるのかと思ってな…」
ここは村の聖地だ。
ましてや未だ神が座すことも証明された。
「マージンさんのような冒険者がいてくれて僕は嬉しいです! そうです歴史の探求は敬意を持ってこそなんです! 正直僕も調べないままなのは不安だし、未練もあります! でも、ここはそうですよね! ぐっとこらえるところですよね!!」
普段落ち着いて話すシルルが瞳を潤ませ熱く語る。
「あ、いや…はい」
思わずマージンがたじろぐほどだ。
フツキですらそんな姿は、彼が嫁に詰め寄られている時くらいしか知らない。
「決めました。責任者として現地は保存し、調査は聞き取りを中心に行います!」
元気に宣言するシルルに村人たちがわーっと拍手喝采を送る。
「え…本当に? 用意した爆薬、本気で使わない?」
「いや、自分でそう誘導しただろ」
「たまにはイメージ改善を図ろうと…というか一冒険者が決められるものなの?」
村人達にわっしょいされているシルルを示してフツキが言う。
「彼。知識や技術もだけど…家系的にもこっそり王家から信用されてるから」
「て事は爆破の出番は無しか…そう決まると途端に爆破したくなるな!」
やれやれと肩をすくめて、フツキは告げる。
「娯楽の少ない場所だ。花火なんてどうだ」
その夜。大小さまざまな花火の光が、大絶壁を彩ったという。