DQX及び蒼天のソウラの二次創作です。
ご注意を。
◆◆35話 作戦開始◆◆
偽造組織の窓口を務める男は、要件を告げると陰気な食堂に自分達を案内した。
ダグと名乗った大男は姿に似合わずくるくると口がよく回り、あからさまにおべっかを使って他愛もない話を続ける。
曰く、御高名は聞き及んでいるだとか。
曰く、さすがは冒険者様は耳が早いだとか。
曰く、幸運にも今ならまだお譲りできそうだとか。
「いやー、まだまだですよ♪ でも、幸運なのは本当です。たまたま大きな仕事に成功して懐が温かい時に、このお話ですから! このチャンスは絶対に逃せなくて! 長く断絶されたレンダーシアの菓子がボクを呼ぶ声が聞こえるんですよ!!」
そのこと如くにこちらも調子を合わせる。
というのも、相手はここでこちらの素性を探っているらしい。
ではどうするべきなのか?
「ちょっと成功して天狗になってるカモを演じれば、そもそも実在の冒険者なので問題なし! 調子にのりまくるといいわ」
ラズの答えは明朗快活であり、スウィ~トの得意分野だ。
傍目から見れば仲良しの荒くれ男と派手派手ドワが笑い合う。
(了承のサイン。獲物としては認められたみたいね。やっとご招待頂けそう)
アイシスと共に控えめに相槌を打っていたラズは、店内の客の一人がダグに向けて示した動作を目の端で捉える。
「スウィ~ト。いつまで喋ってるの? 目的忘れてない? アイシスがずっとが緊張したままよ」
ラズの言葉にアイシスが丈夫そうな鞄を…大量のゴールドが入っていても破れたりしなさそうな…そんな鞄を抱えてこくこくと頷く。
「おお、これは失礼。なにぶんまだ限られた方にしかお譲りしてませんので、お取引相手ごとに時間がかかっちまって…あ、もう大丈夫ですから! ささ、ご案内しますよ」
両手を打ち合わせて、すいませんすいませんとやりながらダグが席を立った。
大地の箱舟から見下ろすよりも、実際に歩いてみるとレンドア島は広い。
様々な路地があり、素人お断りの雰囲気を醸し出す謎の店や、商談用の別宅等があちこちに存在する。
細い道を窮屈そうに幾度か折れ曲がり、一同はこじんまりとしたレンガ造りの館へと辿り着く。
先頭を行くスウィ~トとダグは道中でも歓談に花を咲かせていたが、続くアイシスはラズの表情に違和感を覚えた。
「どうか…した?」
小さくギリギリ聞こえるようにつぶやくとラズは同じように短く答える。
「少なくとも二か所、距離と方向感覚を惑わす結界があったわ。気は抜かないで」
剣士に扮した怪盗の瞳は、凍てついた泉のように本気を宿していく。
影響はとても小さい。だけどその分とんでもなく感知しにくい……。
いやな予感は確信に変わっていく。
小悪党どもの偽造詐欺程度なら、正面から乗り込んでも片がついた。
だがこの精度の魔術を扱う者がいるのは、あまりに不自然だ。
いくつか仕込んできたのも、度が過ぎがた杞憂ではなかったか。
ラズはその心の内で勝負師の笑顔を浮かべていたのだった。
小さなアーチ付きの門を潜り、少しばかり手入れが届いてない控えめな庭を抜けると、年季を感じさせる玄関の扉が開かれる。
執事服に身を包んだ壮年の男は、頭を下げると武器を預けていただくようにと続ける。
「私は剣士だ。このまま外で待たせてもらおう」
ラズが一人になると告げると、執事はダグに相手を任せる事にするようだ。
「ではスウィ~トスター☆様達は、応接室までご案内します」
「ありがとうございます♪ いやあ、珍しいお茶菓子とかあるといいなあ」
「ちょっと、恥ずかしい…やめて」
うきうきと続くドワ男の背をどすっとつつくと、執事は笑いをかみ殺したのか背中が震える。
「ナラム様、お客様をお連れしました」
応接室は落ち着いた雰囲気だったが、こちらもどこかうすぼんやりとした印象を与える。
一方でナラムと呼ばれた商人役らしき男も、きっちりとしたチョークストライプ柄のグレースーツを身に着けているが、野生動物が畏まったような違和感を感じさせる。
お互いがソファに腰かけ軽く自己紹介をする間に、先ほどの執事が茶菓子をテーブルへと用意するタイミングで、スウィ~トは本題を切り出す。
「さて、聞き及んでると思うけど、どうしても欲しいものがあってここに来たんだ。十分な報酬はここにある」
とアイシスが抱えるカバンを指し示す。
「ははは。若い冒険者さんは情熱的だ。グランドタイタス号の乗船パスですな。20万ゴールドでお譲りしますよ」
ナラムが告げると、スウィ~トは大きく頷く。
同時にアイシスが勢いよく鞄を開けると、飛び出したのは黄金の輝きではなく、ピンクの菓子袋だった!