DQX及び蒼天のソウラの二次創作です。
設定や人物の言動など個人の妄動ですよ。
◆◆38話 渡航者を呪うもの◆◆
「それが本音ってことね。いったい何があるのか知らないけれど迷惑なっ」
様子を探るべく声をかけるが反応は鈍く、呻き声が返ってくる。
正気じゃないのは確かね。洗脳や操作と言うよりは…乗っ取られてる?
相手の不規則な所作や、人体を巡り包む魔力の異質さからラズは判断する。
「言いたい事だけ言って口を噤むなんて、女性の相手をするには落第ね。そんなんじゃあ、バイバイさよならされて当然よボクちゃん」
人相風体、どう見ても中年男性である相手はラズの物言いに激昂する事なくじりじりと間合いを計る。
「簡単に逃がさないってわけね。それならおしゃべりくらい付き合いなさいよ」
まずはサマベルの確保に動きたいという本音が、ラズの心に小さなさざ波を立てる。
「逃がさない…そして殺さない……」
意外な事に言葉が返ってくる。感情のない虚ろで平坦な言葉にラズの頭に疑問符が湧く。
「殺さない?」
自分を捉え尋問でもするつもりなのか…それとも安心感を与えて油断を誘う心理戦か?
それら可能性を検討する中、男は突然目を見開き歓喜を叫ぶように宣言する。
「その手足をもぎ、絶望を歌うオルゴールに変えてやろう。レンダーシアを目指す者全てに恐怖が届くように!」
吐き気を催すようなおぞましい言葉。恐慌を呼び起こすような残酷な思考。
だがラズはその言葉に口の端を歪める。
「なるほど…だから長々と詐欺を続けてるわけね。アンタの目的はレンダーシアを目指す者の心を挫く事。だったら詐欺の被害は多ければ多いほど、大きければ大きいほど影響は大きいものねぇ」
航路の再開と同時に、多数の詐欺被害ともなれば大きな醜聞となりうる。
「魔物も色々考えるものね。本当、レンダーシアに何があるのか…私も知りたくなっちゃいそう」
「…念入りに、爪を、指を、手を、肘を……少しずつちぎってくれよう」
陽気なラズの言葉と対になるかの如く、男の声は今や地獄の底の氷の如く冷たい物へと変わっている。
次の瞬間ラズの掌には灼熱の火球が、男の手には暗黒瘴気の塊が生まれる。
「メラゾーマ!」
「ドルモーア…」
炎と闇の呪力が炸裂し窓ガラスが衝撃で砕け散った。
(今、面倒な相手とやりあってる。すぐには合流できないから、本当にそっちは頼むわ。ちなみに、おっと、今は…っと映像確認してる余裕はなし。以上!)
不意に響いたラズからの一方的な通信にスウィ~トは上階から響く異音の正体を知る。
「ラズが戦ってるから、すぐにには来れないって。こっちもまず救助を急ごう!」
「うん。開けたら…ざらめ、おねがい」
アイシスは台所の床に設えられた地下への扉を力いっぱい持ち上げる。
転がるように階段を下りてきたピンクの袋に、見張りの男はぎょっとして、何事かと扉の方へと視線を向ける。
が、勿論それが罠である。足元でむくりと起き上がったざらめが、思いっきり体当たりをくらわせて、男は派手にすっころび、何が起こったか気づいた時には喉元に鋭い鎌の刃が迫っている。
うーん。ボクっぽくないなあと思いながらも、これも人助け!と気合を入れて恐ろし気な顔と声を意識する。
「抵抗するな…この首落としちゃうからねぇ」
「ひぃ。しない、しないから…」
「制圧完了。手伝っ」
「待ちな。仲間がいるなら出入り口の確保が大事だよ」
アイシスに声をかけようとしたスウィ~トをしわがれた声が留める。
「あんた達、ここじゃ見た事のない顔だね。冒険者かい? なら、囚われた老婆の味方をしてくれるんだろうねぇ」
深く皺の刻まれた顔や、曲がった腰からは想像できないしっかりとした声。
襲撃を理解し自らロープを携えすぐ傍まで歩み寄っていた判断力と行動力。
そのどちらにも感嘆して言葉を失い、こくんと首肯してからスウィ~トは我を取り戻す。
「あ、いえいえ! 冒険者ですけど、いまは怪盗団のバイトだよ。ラズさんとこの!」
「ラズゥ…? あのはねっかえり、まだ嫁にも行かずにやってたのかい。まったく」
見張りの手足を縛り付けて、猿轡まではめながら老婆はどこか嬉しそうに悪態を吐く。
「あはは。その口ぶりだとサマベルさんで間違いないってことかな?」
「つまり元々あたしを助けるために来てくれたってのかい…まったく本当にもう…ああそうさ。サマベルはあたしだよ。事情は分かったからさっそく逃げるとしようか」
言いながらもサマベルは階段を上り始める。
「さあ、押しとくれ。あたしも歳だそうテキパキと動けないからね」
十分一つ一つの行動を起こすのが早いと舌を巻きながらスウィ~トは手伝うのだった。