DQX及び蒼天のソウラの二次創作です。
◆◆39話 上からきたぞ◆◆
階段を上りきると天井の頑丈そうな梁が歪むのではないかと思えるほどの爆発音が響いてくる。
「崩れ…たり?」
アイシスの呟きにスウィ~トは身震いする。
「外に急ごうっ!」
サマベルの手を引いて来た道を戻る最中、ラズの切迫した声が届く。
「ごめん、そっちに敵が行きそう!!」
「わっつ!?」
どこの言葉とも知れぬ驚愕を口にした時、一行の前にぼたりと闇の塊が染み落ちてきた。
「私としたことが、余計な一言だったわ」
スウィ~トに警告してラズは臍を噛む。
呪文を詠唱する魔術師でありながら、戦闘時に会話を駆使する稀有なラズゆえの失言。
「まあ、パスを欲しがってる仲間のためにもここは引けないのよね」
その一言で敵はあっさりと優先順位を変えたのだ。
「マキちゃん。映像お願い」
古の浮遊型魔神機を起動し、スウィ~トの視界を投影。
敵の出現を確認し、現在位置との関係を素早く推測する。
「えっとここなら…大丈夫なはず」
東に5歩、北に1歩。距離を調整するとラズは詠唱を開始する。
「レンダーシアを求める者に悍ましきトラウマを……」
黒い何かを纏う中年男性が床にたまった闇より浮かび上がる。
姿だけが人の形を残した敵は濁った声で呪文を紡ぐ。
「やばい。ドルマ系っぽい!」
すでに前衛に飛び出していたアイシスにかばわれながら、呪文の属性に戦慄する。
直接点を狙える呪文がサマベルに向けられれば、守る手段は極端に少ないのだ。
「レンダーシアでスウィーツ三昧するのはボクだからね!」
魔法反射呪文マホカンタをサマベルに付与して叫ぶ。
同時に怖気を伴う衝撃がドワーフの半身を襲い、堪えきれない苦悶の呻きが漏れる。
「そこまでっ だから!」
続けて呪文を唱えようとする敵にアイシスの二刀が嵐のように打ち込まれる。
切り飛ばされた闇があたりに飛び散り、蒸発するように消えていくがその刃が肉体にまで届かない。
「おい! あのばあさん逃げ出してるぞ!」
「親分が戦ってるじゃねえか! 助けるぞおまえら」
「え、でもなんか変じゃね?」
さらには廊下の奥から手下共が集まって駆け寄ってくるに至り、鎌を杖代わりにスウィ~トも身を起こす。
「アイシスはそっちに集中して…後ろの奴らはボクが…」
痛みをこらえて反撃に転じる瞬間、ひと際大きな爆発音が一発。
そして二発目と同時に天井は崩れ落ち、集まって来た手下達を巻き込んでいく。
うぉお、ぐああと瓦礫に埋もれて無力化された手下達、その上に君臨するのはもちろんラズだ。
「ド派手に登場の方がやっぱり向いてるわ私♪」
「くぅ。さっき食べた茶菓子よりも美味しい登場してくれて…まったくもう!」
「先輩怪盗としてはこれくらいはね♪ そっちこそしっかりお宝確保してくれて。優秀じゃない!」
「失礼な。物扱いするんじゃないよ」
無事な姿を確認して、この状況にもかかわらずラズの声は弾んでいる。
応じるサマベルも言葉に余裕が感じられるのは、長年の関係ゆえか。
「こっちもパスは確保済み。怪盗的には華麗に逃走すれば任務完了だけどっ」
アイシスに掴みかかろうとしている敵の背にヒャドを撃ち込むが、そちらも表面が凍り付くのみでラズの表情が険しくなる。
火炎に続き氷結もまともに効果がない事になる。
「手ごたえが、変…こいつ…なに」
剣で払い落としても切断されることのない腕。そこから右腕の付け根を狙ってドルマの黒点が生じる。
追撃を諦めて身をよじると入れ替わるようにスウィ~トが飛び掛かって鎌を振るうが、こちらはあっさりと躱される。
「やっぱりこれ、間合いとか色々違いすぎる、よ!」
言いながらも攻撃を続けて、隣に戻ったアイシスと共に呪文を唱える隙を作らぬように攻め続ける。
「諦めろ。レンダーシアは盟約によって閉ざされた。お、お前達が踏み入る余地はない」
溺れながら語るような不快な声が浴びせかけられ、自分達の攻撃が徒労に終わるいやなイメージが沸き上がる。
その最中で衰えぬ眼光を持った老婆は一人、その存在を捉えていた。
背中側のラズにも、戦いに夢中のスウィ~ト達にも見えなかったそれは、敵の男の口内奥深くで、ちらりと邪悪な瞳を光らせたのだ。
こういうのは兵隊や自警団に、あたしらみたいなのが言われる台詞なんだろうが…まあ言ってやろうかね。
皮肉なものだと思いながら、サマベルは口を開く。
「ラズ、そいつは腹んなかに何かいるよ。ぜーんぶゲロって貰おうじゃないか」
「おっけー! スウィ~ト、アイシスそういう事なんで、協力よろしくね♪」
ラズは頭の中で段取りを描くと、即座に動き出した。