DQX及び蒼天のソウラの二次創作です。
設定や人物の言動など個人の妄動です。
◆◆41話 顛末◆◆
ひんやりと冷気を漂わせる氷の華。
「それにしてもレンダーシアに行かせない事に、なんでこだわってたんだろう」
その中心で捕らえられたモンスターの姿にスウィ~トが首をひねる。
「尋問とかしたら教えてくれたりするのかなあ?」
あまり現実的でない思いつきを口にした途端、突然サマベルとラズが口を揃える。
「そういうのはだねぇ」
「得意そうなのに任せてさっさと退散よ」
「え、なに急に?」
「まだまだ新人だねえ。こういう勘所は大事だよ坊主」
サマベルがわざとらしいため息を吐きながら、来た道を戻り始める。
「思ったより早く突き止めちゃったみたいね。このタイミングで来るとは~」
ラズもスタスタとそれに続く。
「え、なにが?」
アイシスも戸惑いながら二人を追う。
「捜査の手ってやつじゃよ。こりゃ魔法戦士団あたりも捜査協力したのかもしれんの。くわばらくわばら」
廊下の角を曲がり姿を消しながら言うサマベルの声が消えるのと同時に、玄関の方から多数の人間の声と気配が近づいてくる。
「うわわわ。逃げるよざらめ」
ざらめを抱え上げると同時に聞こえてくる声、声、声。
「アスカくんとミャジの隊はそのまま上階を頼む」
「了解」「はいはーい」
「公務中は返事もちゃんとしてください」
「う、りょーかい」
「ユナティくんと私は捜査員と共に一階を捜索する」
「戦闘中の可能性もあります。まずは魔法戦士団が先行します」
「う、うむ。よろしく頼むよロスウィード司令官」
はっきり聞こえるのはかなりの人数のやり取り。
一網打尽にするつもりの本気さうかがえる。
なんだか知った名前が聞こえたような気もするが……今だけは絶対に再会はノー!なのである。
「ひー、くわばらくわばら」
サマベルが口にしたまじないをマネしながら、息を殺して必死にラズ達を追うのであった。
「すっかり夜中になったなぁ」
薄雲の向こうでぼんやりと光る月を見上げて呟く。
「さすがに年寄りには堪えたねぇ」
「あの逃走劇、音を上げないの…凄すぎ」
「ばあちゃんは気合の入った偽造職人だからね」
「あんたが言うほど、気持ちだって若くないんだけどねぇ」
さすがにもう駄目だと縁石に腰を下ろしてサマベルは長く長く息を吐く。
その横にラズも腰を落ち着けるのを見て、スウィ~トもやっと逃げ切った実感が湧いてくる。
「お孫さんの事は仲間達がちゃんとしてるよ」
「あんたが乗り込んで来たんだ。そうでない事が…あるもんかい」
「……」
「……」
「それで、ここまで何も聞かなかったの!? 以心伝心!?」
二人ともがお互いに寄せたその信頼をじっくりと味わうように、穏やかに流れる沈黙の時間をスウィ~トが破壊する。
「まったく、騒がしいのを連れて来たねぇ」
「お恥ずかしい…限り」
呆れたように笑うサマベルに、アイシスがぺこりと謝る。
「く、なんだよ! 疲労回復に必要な糖分を分けてあげないぞー」
いつの間にか取り出したキャンディーを人数分掴んで、ぐるぐると振り回し抗議する様が、ますますもって騒がしい。
「そういうこと言うと~これ、どうしよっかなあ」
ぴょんと立ち上がったラズの手には二枚の乗船パスが魔法のように現れている。
「あー」
ぽむと手を打つアイシス。
「そうだよ! サマベルさん連れて無事に逃げる事に必死で、完全に忘れてたよ!」
一瞬呆けた後にドワーフの大きな顔が喜色満面。アイシスの手を取って大喜びだ。
ざらめも便乗して心底喜んだものだから、ご近所の窓が開いて、うるせー!と怒鳴られる始末だ。
「まあ、騒がしいのは確かだけど、私の見る目は少しも曇ってないでしょう?」
「善人過ぎるのもどうかと思うけどねぇ」
二人して窓から顔をだした頑固そうなおやじさんに何度も頭を下げる姿を、サマベルとラズは目を細めて眺めるのであった。
結局、詐欺グループの顛末は剣士に化けた謎の女の言う通りとなった。
あの直後に大規模ながさ入れがあって、人質を匿っていたやつらも含めてお縄を頂戴したのだ。
噂によれば、氷漬けにされた魔物が捕獲されたともいう。
ますます持って彼女の分析が正しかったと戦慄するしかない。
まったくもって…オレは運がいい!
「どうせ逃げるなら退職金代わりにって、応接室の本物一枚かっぱらった甲斐があったぜ。これを10万ゴールドで売りさばいて一儲けだ!」
ラズによって庭の片隅に放置された男ダグ。
神の采配ようなタイミングでたった一人逃げおおせた彼が手にした一枚は、鱗持つある男の手に渡る事になるのだが、それはまた別のお話。