DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
◆◆44話 それぞれに◆◆
「マグロの怪か。あんまりヤバい気配はしないな。そこのところどーなのしーちゃん」
「……」
「いや、その、どうなんですかディオニシアさん」
「アマセの見立てで正しいかと。海原を彷徨う霊がこの船にたまたま拾われたのではないでしょうか」
「だったら大きな危険はなさそうなんだ。シアはどうしたらいいと思う?」
ユルールはクエストを受けるべきか問うてきた仲間に聞き返す。
困っているのなら手を貸す。
内心その事は決まっていたが、危険の少ない幽霊をどうすればいいのか、さすがにこれといった指針は持っていなかった。
「所在を確認して浄破呪文…いえ、心残りを解きほぐして天に帰す事が出来れば最良でしょうか」
「マグロの心残りを!?」
「凄いなーシア」
驚愕するドワーフ武闘家のヨナと、すんなりと受け入れるユルールの両極端の反応に、アマセがにやりと笑う。
「マグロが本体ってわけじゃない。そうだろしーちゃん」
まるで懲りないエルフの魔法使いアマセを、ジロリと睨みつけてからディオニシアは肯定する。
「なら皆で幽霊探し、がんばろうかー」
出来るなら特に断る必要もない。ユルールはやんわりと笑う。
「ただ別に気になる事がありますユルール様」
操舵室へ行こうかと船室のベッドから立ち上がった主に、ディオニシアは真剣な眼差しで告げる。
「もう一人、調査を頼まれた冒険者がいるのですが…気を抜けないかもしれません」
「レンダーシアに渡ったとして大魔王様に会えるとはかぎらないのでしょう?」
グランドタイタス号の出航日に向けて旅の準備をするリモニーザを手伝いながら、ケケは心配顔だった。
「お会いしたことはあるわ。それにシロイロは元々大魔王様の作品ですもの、無下にはされないかと」
「そうかもしれないけれど、あなたが大魔王様を心配しても…ねぇ」
「でも、なんだか胸騒ぎが…いえ、確かに私が心配したところで邪魔にしかならないのかもしれないわね」
実際、大魔王マデサゴーラ様がレンダーシアにいるのは確信しているが、どうすれば会えるのかは見当もついていない。
「それでも行きたくて仕方ないなんて、まるで恋する乙女かしらね?」
「く、またそうやってからかう様な言い方を……。そう何度も慌てたりはせぬからな」
口元を結んで自制心を総動員したリモニーザに、ごめんねと可愛く謝ってケケは手を止める。
「そもそも大魔王様の事より、あなた自身の目的の方に集中した方がいいんじゃないかしら?」
イズナの持ってきた情報で、例のレシピを持った冒険者が同じ船に乗る事はほぼ確実ゆえの忠告。
「まずそちらをというのは同意だが…どのみち船上では手を出せないはず。冒険者も多数乗船しているでしょうし、例のユルール達も乗っているでしょうしね」
そもそも冥王を討ち破った冒険者達の活躍によって航路再開ともなれば、魔族たるリモニーザとしては大いに警戒せねばならない。
「大丈夫よケケ。迂闊な事はしないから」
「本当に気を付けてね」
念を押したケケの顔が今一度思い出される。
(ああ、そうか…イズナと一緒だものね。心配もされるわよね。うん、出来ればそこまで口にして欲しかったわケケ)
思わず天井を見上げて哀愁を漂わせるリモニーザに、真面目な顔でダドリーが礼を述べる。
「イズナさん、リモリモさん引き受けていただき助かります」
「あ、申し訳ないのですけどそちらは愛称ですので…リーモニンとお呼びくださいませ」
乗船名簿に記された偽名へと呼び方を訂正しておく。念には念を、ケケの気持ちを無駄にしてはいけないのだ。
「副船長。ユルールさん達も来ましたわ」
そこにやって来た四人の冒険者の姿に、リモニーザの背筋が伸びる。
気づかれてはいないはずだが、平常心を保つのにはそれなりに苦労が必要でゆっくりと息を吐く。
「わー! ゆるるんがゆるるん? おはつ―♪ イズナだよ」
とそんな緊張とは全く無縁なのか、イズナは駆け出すとオーガの少年の両手をとって挨拶しながら、じっくりと観察開始だ。
「おっ、ユルールの事を一瞬でゆるるんと見抜くとは、お嬢さんやるねえ。俺はアマセ、よろしくな!」
その軽いノリに速攻で同調してアマセが下心inで素敵な笑顔を見せつける。
(ねえ…あれが魔族かもしれないのかい?)
(少し自信がなくなりました…とうか、ユルール様に馴れ馴れしすぎではないですかあれ!)
(ああいう子は誰に対してもああいう感じだから…落ち着きなさい。ね)
そして後方では女子二人が何やらこそこそ。
(あれ…変に緊張してるの私だけなのかしらこれ…)
リモニーザは調査開始前からすでにどっと疲れを感じるのであった。