DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
◆◆47話 ねぎとろ◆◆
「じゃあ、また後で~」
アマセが通信用コダマのレクチャーを終え、ユルールが手を振りシアが頭を下げる。
「こっちは任せろー♪」
応えて手を振り返し、スウィ~ト達も廊下を逆方向へと歩き出す。
「マグロが飛び込んだのが右側だから、こっち側のどこかなのよねぇ。上下で分けたとしても範囲広くなぁい?」
「んー、でも客室とか人の出入りの多い所は違うだろうし、そこそこ絞られるんじゃないかな」
(驚いて転倒したかと思えば意外に冷静なのね)
相変わらず自然体で話すイズナに何気なく応じるスウィ~ト。彼の言葉通り探す場所は限られる。
(とはいえ首達を呼び出して探させるわけにはいかない。歩いて確かめに行くしかないのだけれど)
ふぅと小さくため息を漏らしリモは二人の後に続く。
そしてそんな様子を最後尾から眺めるアイシスも困っていた。
(判断、する要素がない…相談もしたいけど)
この二人が魔族かもしれないとしても、この状況で二人っきりになるのは不自然すぎる。
どうしたものかとアイシスも小さなため息を吐くと、ちょうどリモも二度目の溜息をついていた。
「リーモニンと私…似たり寄ったり?」
「そうなんでしょうか、ね?」
少しばかり気が抜けて語り掛けると、リモも少しだけ笑ったようだった。
なんにも気にしていないであろう二人と、互いに悟られてはならないと気の抜けない二人。
即席パーティーの探索は平和そのもので、穏やかに確実に進んでいく。
「ここで間違いないかと。気配がありますから」
「鍵…かかってるね」
「倉庫ってプレートあるしね。借りに行くかぁ」
「あ、たぶんこれ使えるよぉ?」
「うわ! 本当に開いた!?」
「ていうか…壊れた」
「伝説のまほうのかぎのレプリカなんだってぇ」
「凄いの持ってるな!」
何気ないやり取りにツッコミを入れたスウィ~トに、イズナは胸を張る。
「服だけじゃなくて、アタシの店は小物も充実させてるからね! 鍵のデザインはアクセサリーでも定番なのよぉ♪」
「いや、あの…これ実用品」
「レトロなデザインが良かったから仕入れちゃったぁ♪」
冒険者ではなくただの服飾店の店員。
今回は仕入れの旅で友人に同行していると言っていたが、何とも侮れないオーガ女子(魔族疑い)にアイシスは惑わされっぱなしである。
「開けるわ」
そんなイズナの名調子を脇に、リモは静かに扉を開く。
明かりもなく廊下側から差し込む光がぼんやりと室内を浮かび上がらせると、そいつは包丁を振り上げていた。
『ぬおおおおぉぉ!!』
奇声を上げて刃が振り下ろされる。
ダダダダダダダン、ダダダダダッダダン!
小気味よく刻まれるリズムに合わせて、まな板の上で細切りにされたマグロの身がミンチ状のねぎとろへと変わっていく。
様々な木箱が並ぶ倉庫で一心不乱に包丁を振るう幽霊。
あまりにもちぐはぐな光景に四人ともが一瞬思考を停止する。
「なかなかの手際…」
最初に口を開いたのはアイシスだった。調理ギルドで幾人もの職人達の作業を見てきた彼女の言葉に、リモも深く頷く。
「ともかく発見したからには…連絡を頼みます」
「あ、うん。するね」
アイシスは幽霊を刺激しない距離まで離れるとコダマを繋ぐのであった。
「本当に一心不乱だねー」
入り口からその背中を覗き見てユルールが感心する。
「幽霊ならば執着こそが本分というものです」
「うーん。そうなのかな」
すぱりと言い切るリモにユルールは少し困った顔を見せる。
死者の残した思いと形が幽霊だとするならば、その在り様がそれほどに単純だとは思えない。
始まりから今この瞬間まで歩んできた冒険の中でユルールはそれを知っている。
無念の死を遂げてなお誇り高い、この身体の本当の魂の姿を忘れはしない。
「心残りに向き合ってあげたいなと思うんです」
これまで見せたふんわりとした表情とは別の真摯な眼差し。そには幾多の困難を乗り越えた強い意志が宿っている。
「まず私が話してみます。イズナ様のお話ではリーモニン様も死霊の類には知見があるとの事、補佐をお願いできますか」
「必要があれば…そのようにしましょう」
シアとリモは火を灯した燭台を手に倉庫へと踏み入る。
「しばし閉めます。何かあればコダマにて」
「いってらっしゃ~い」
「よろしく頼むねシア」
イズナやユルールの声を背にぱたりと扉が閉められる。
「幽霊になって思考が極端になってる事はありうるからな」
「専門家に任せて待つのが正解だろうね」
アマセとヨナは言葉とは裏腹に室内の気配に集中している。
(何も起こりませんように)
アイシスも二重の意味でそう祈るのだった。