DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
独自解釈など有りますので公式との齟齬もあり。
大丈夫な方は読んでみてね!
◆◆51話 喧嘩はやめて◆◆
「食べるだけとは失礼なーっ!」
「事実だろう? ここ数日で調理が出来るのはアイシスの方だと分かっているのだから」
「ぐぬぬ! でも食べる人がいてこそだろー!」
「そもそも作る者がいなくては始まりもしないが?」
「それはそうだけどっ!そうじゃなくてお互いリスペクトをっていうかさぁ!」
平行線の口喧嘩を虚ろに見ていた幽霊が、不意に口を開く。
『か、菓子の事で…喧嘩は良くない』
思わずスウィ~ト達も口をつぐんで、そちらを見ると幽霊の瞳が見返している。
『菓子は幸せをつくる…それを作るんだから、そのことで喧嘩なんてしちゃだめだ』
「話が通じているの?」
「調理以外の、私達の言い争いを理解していますわね」
顔を見合わせるスウィ~トとリモの視線の中で幽霊はこくりと頷く。
『あの日…俺もつまらぬ口喧嘩をしたのだ。満足のいくものに辿り着けず、他の物を試せばと言われて妻を怒鳴りつけた…。故郷の味を…マグロを譲るわけにはいかなかった…だから、言い争って飛び出して漁に…』
「じゃあ、そのまま海で……」
つらい別れだと知ってスウィ~トが目元を拭う。
(そしてその悔恨すらも削ぎ落して…最後に残ったのが菓子への思いとは……)
リモは言葉なくその事実に思いを馳せる。
イズナもケケもアストルティアの民に一種の好意を持っていたのは、こういう事なのだろうか?
求めるものへの一途な思いの強さ。純粋さ。
ならば師も…バーウェンもそう考えていたのだろうか?
「そうだよなー。どうせ喧嘩もバトルも出来ないんだから口喧嘩も無駄かぁ」
リモの思考を遮ってスウィ~トは座り直すと力を抜く。
「リモも座ったら? 別の話をしようよ」
「その気はないと言ったでしょ?」
『だから…喧嘩だめ』
「言い合いを続ける気もないわ。ふー。もう勝手にしゃべったら?」
「おっけー♪ じゃあ魔族のパティシエ、バーウェンの冒険を披露しちゃおう」
子供への寝物語を始める様に、さらりとその名を出されてリモの口があんぐりと開く。
なぜその名を知っていると問いただそうとするが、スウィ~トは饒舌にバーウェンと人間のパティシエ冒険者ポルリオンがいかに妖精の国で大騒ぎしたのかを語りだす。
それはリモの知らぬ物語。
当時の従者シロイロも帯同できなかった空白の旅路。
スウィ~トは情景豊かにそれを紡ぎだす。
リモが何か言葉を挟もうとする度に、口調が変わる。拍子が変わる。
立ち上がりって、身振り手振りが加わり、舞台のように情熱を込めてゆく。
感情の希薄なシロイロから聞き及んでいた他の旅路との乖離。
いつの間にかリモはその物語に呑み込まれ、反論すら忘れていた。
「こうして二人は仲良く妖精の国を追い出されました♪ ちゃんちゃん」
『た、楽しそうだ!』
聞き入っていたのか幽霊がパチパチと拍手を送る。
「そんな馬鹿な話が…確かにレシピには妖精の力による封印が……いや、しかし」
一方リモは、アストルティアを満喫し人間と共に夢を見たという物語を受け止め切れていない。
「あー、そういう反応になるだろうなとは思ってたよ」
「どういう意味。まさか作り話なの」
視線を鋭くするリモに首を横に振る。
「それだと名前を知ってるのは変でしょ? 妖精の国でレシピにまつわる話としてちゃんと聞いたんだよ」
「うう。確かに…。でもでも」
これが自分の命をあっさりと断とうとした魔族の姿かと思うとスウィ~トは何とも言えない気分だ。
むしろちょっといじめているような錯覚に陥りそうだ。
「素直に言うと他の話は全く知らないし、二人も最初から意気投合したわけじゃないみたいだよ」
彼らが妖精達に披露した話には、敵対していた時の話もあったと言っていたのをスウィ~トは覚えている。
「でもさ。いろんな状況や巡りあわせが世界にはある。今のボクらだってかなり奇跡的状況だよね。ならリモの師匠にだって奇跡があったのかもしれない」
「た、たとえそうだとして…どうだというのだ。私達にもそうなれとでも」
嫌だ。無理だ。ありえない。とのニュアンスが溢れる険のある口調。
頑固な性格もあるのだろうけど、それだけじゃないとスウィ~トは理解する。
「んー。弱い。料理しない。背が低い。寿命も短い。口ばかり…そんな感じかな?」
突然、指折り数えながらスウィ~トが問いかけてきてリモは言葉に詰まる。
いったいこのドワ男は何を言い出しているのだ?と。