DQX及び蒼天のソウラの二次創作
独自解釈、公式との齟齬もあり。
◆◆61話 恨み◆◆
最初に自分達を迎えた時から、ジョイフーには企ての匂いを感じていた。
イズナは権謀術数を駆使する魔族や人間には敏感な方だ。特に敵対するであろう相手ともなればなおさらに。
(そもそも隠せないタイプみたいだけど)
これまでの会話の中で、そして今部下を殴り飛ばした激昂からはっきりと断じる。
(大魔王狂信者ってとこかしらねぇ。裏であれこれやろうとしてもちょっとした怒りでそれが漏れ出す…つまりイズナ…ううん、リモリモにご立腹なわけかー)
ちらりとリモニーザの表情を窺うと彼女は計ったように小さく頷きを返す。
ん、わかった上で情報収集がしたいってのなら、もう少しは付き合ってあげよっかなぁ。
いやーイズナちゃんってば大人だなぁ。うんうん。
などと一人で納得していると、不意にリモニーザが声を上げる。
「スウィ~トスターですって!?」
ああ、ダンジョンに引き込まれたのはあのドワーフ達だったのかとイズナは笑いを堪える。
あれこれイベントを起こすタイプは嫌いではない。
(ほほ~ん。下船したときに一緒におったやつか)
「知ってるんか? なんぞ因縁もちかいな?」
水を向けられてリモニーザは一瞬言葉に詰まる。
「そうですね。こちらばかり色々聞きました。私の事情も掻い摘んでお話しましょう」
イズナの視線を感じながらスウィ~トスター☆について語り始めた。
「明らかに狙われてる?」
床の間に刀が飾られた広間で腰を下ろしたスウィ~トにアイシスが声をかける。
「うーん。だよねぇボクに対して殺意マシマシだよこれ」
息を整え水袋から一口呑み込むと、立ち上がって手渡す。
「ありがと…」
警戒役を交代してアイシスが一息つくまでの短い沈黙の間に、何か手は打てないのかと思考する。
おそらく自分達は敵意を持つ何かの腹に飲まれたに等しい。
そしてその敵意はボク自身へのものだ。ざらめにもレシピにも関係ない。もちろんアイシスにも。
「でもなんでボクなんだ? いや…でも、そうだ。シノバス…何かが引っ掛かってて……」
クロウズの言があったとはいえ、ここに来たのは自らの意志があっての事。その引き金はその名であった。
『えてして葬り去った者どもほど……忘却へと流してゆくものか』
不意に声が響く。陰気な小声の耳ざわりでありながら、滲む怒りが弱さを覆す声。
「シノバス!?」
記念館の入り口に掛かっていた姿絵の中の男性が、いつの間にか部屋の真ん中に佇んでいた。
朗らかな微笑を浮かべたそれとは裏腹な、憔悴した目だけが爛々と燃えるような禍々しい様子は尋常ではない。
「また幽霊?」
跳ねるように立ち上がったアイシスの声にも緊張が籠っている。
左にはアイシス、右へはざらめが展開しながらスウィ~トも擬態したチョコスティックの刃を開放する。
「くくく。確かに我が恨みは五百年の時を超えて蘇った亡霊かもしれぬなぁ」
「でもその肉体は霊体じゃないよね。それくらいボクにもわかるよ」
「そんなことは重要じゃあないんだよ。愚かな貴様の祖先が……この我に……この我の“本当”に何をしたか。それを知ってもらわないと……栄光を手折った罪深さを、理解してもらわないと……」
時折びくりびくりと体を震わせながらも、その瞳だけはスウィ~トを射抜くシノバス。
その瞳を真っ直ぐに覗き込んだ時。スウィ~トの幼い記憶が泡を立てて浮かび上がる。
「シノバス! そうか道を誤った楽器職人!! おぞましい素材を制作に用いて…ついには魔物になってご先祖様達に退治されたって! 道の先を極めんとする時、正道を進む様にってお説教の時に出てきたやつだ!!」
喉の奥に引っ掛かった小骨が取れたような嬉しさで大声を上げるが、アイシスが即座にツッコむ。
「後世まで名声が残ってるシノバス。それ、同一人物、なの?
「へ? あれ……そういえば変だな」
一気にテンションを戻してキョトンとするスウィ~トに対して、この場に立つシノバスは人の顔とは思えぬほどの歪んだ笑みを浮かべる。
「そうだ……貴様の血の連なりは革新をブツ切り、見出された美を磨り潰し、凡愚の無理解の奈落へと真の芸術を埋め沈めたのだ。ああ、罪深い…大罪人の汚れた血よ」
虚空を見つめて陶酔するシノバスの言葉が呪詛となり、ぽつりぽつりと畳に朱色の染みが広がり実体のない影の魔物、ホロゴーストが蠢きだす。
「また…物量かよ!」
「その前に、討つ」
ぐねぐねと伸ばされる影の手を振り切って、アイシスが二刀を上段から切り下すがシノバスの姿は掻き消えていた。
「積年の恨みに嬲り殺されておくれ。くははははっ」
言葉と魔物達だけを残して。