DQX及び蒼天のソウラの二次創作。
ネタバレ、独自の解釈や描写あり。
自キャラ妄想なのでご注意を。
◆◆84話 新しい理想◆◆
「なるほど考えたものだ」
スウィ~ト達の真正面に降り立った理想の竜。
「我が我を自覚して皆の理想と乖離させる。そうすれば勝ち目もあるかもしれぬ。だが……」
愚かな事だと竜は言う。
「もし本当に我が理想を手放したなら貴様達もまた理想を手放すのだぞ」
見下ろす竜の眼は蔑むようにも、諭すようにも見える。
「卵の事。だよね?」
アイシスの言葉を竜は頷いて肯定する。
竜の守る卵が価値ある至高の食材であるというのもまた、理想によって存在する事象だからだ。
当然その点についてはリモニーザも気になっていた。
窺うようにドワーフの横顔に視線を送ると、スウィ~トはうむうむと頷いている。
「やっぱりそうだよねー。でも別に理想の竜をやめてもらうつもりとかないよ。さっきも言ったけどボクがしたいのは協力なんだ」
だ・か・ら!
舞台役者のように大仰な身振りを付けてピンと立てた人差し指を振って勿体をつける。
「りっちゃんには、理想の在り方を──ただ一身に受け取る形じゃなくて、ボク達と分かち合ってほしいんだ!」
変わらぬ大げさな身振り手振り、だが込められる熱意の量は天井知らずだ。
「最初は一人で旅立った」
とんと胸を叩く。
「アイシスがボクの理想の旅を守ってくれた」
一歩控えていたアイシスを後ろに回って押し出す。
「さらにざらめが彩ってくれた」
抱え上げられてざらめが嬉しそうに揺れる。
「リモニーザ達とはしのぎを削って、やがて並んで歩き始めた」
そっと降ろされたざらめがちょっと残念そうにへにょっとなるのにごめんねとポーズしてから、ドワーフの分厚い手がリモとシロイロの一見華奢な手を握って万歳する。
「たくさんの人の喜びと、手助けがあってここまできた。だからキミ本人とも話をするためにボクはこの作戦を思いついたんだ」
最後に竜へとウィンクをお見舞いするスウィ~ト。
こういう事を恥ずかしげもなく言ってやってのけるのを、長い付き合いのアイシスは微笑ましく眺め、逆にリモは面映ゆく感じて視線が泳ぐ。
それは竜から見ても縁を結ぶ事への想いが本物であると信じさせるやり取りだ。
「しかし、そのすえが協力的に卵をよこせというのではな」
と同時に自分本位ではないかと、思わずにはいられない。
「んー、モーモンがさ。いきなり血を吸いに来たら怖いけど、苦楽を共にしてきた仲間モンスターのモーモンがお願いしてきたら……人だって少しは考えるよね? そういう時間や経験の共有の先にって話だよ」
「竜と時間を共にするというのか? 永き時を存在し続ける我と瞬きの間に生を終えるアストルティアの民が……」
意外な言葉に驚く竜だが、スウィ~トの方はけろっとした顔だ。
「幽霊になっても夢を繋いだ人がいたし、幸いにもここには長命の魔族だっている! ボク達とキミがその気になれば、いつかきっとお互いが納得した共同の理想としてのスウィーツが作れるはずだよ♪」
「え? それ私の人生計画まったく考慮されてない!?」
「待って。すべて丸投げで最期を迎える気なのか!? いやスウィ~トもアイシスも関係なく師匠の夢は実現するつもりですけれど! さすがに寝耳に水だわ!」
覚悟が決まっているのか行き当たりばったりなのか。
飛び出した言葉にアイシスとリモが左右からスウィ~トの真意を確かめようと迫る。
「いや、もちろん生きてるうちに完成して食べたい! 味わいたい!! けどこの作戦にはどうしても時間がかかるんだ!」
二人を押し返すようにしてスウィ~トは力説する。
だってアストルティア中に『ドラゴンは冒険者を認めて一緒に作ったお菓子を味わう』という物語を広めなくちゃだめだからと。
「そういう未来をりっちゃんに納得してもらって、アストルティアの皆にも夢見てもらう事が不思議なレシピの実現、至宝のウ・ア・ラ・ネージュと極限トライフルへの道なんだ!」
「大陸間鉄道にも負けぬ遠大な計画だ。ドワーフというのは一番気の長い種族なのかもしれんな」
重ねて力説する姿に、くくくと竜が笑う。
「ならば、具体的にどうするつもりだ冒険者よ」
ひとしきり笑った竜がそう問うと、スウィ~トはにやりと笑う。
「ドラクロン山地に住む! りっちゃんとはご近所づきあい&甘々なお菓子の冒険を通して新しい理想像を広めて来るよ!!」
本日何度目かわからない突拍子もない発言に、スウィ~トの仲間達(主に二名)から驚愕の声が上がったのだった。