DQ10と蒼天のソウラ関連の二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
◆◆◆はじまり(2)◆◆◆
そして、今――
「追い詰めたぞ。我らコルピシラ・ステラを嗅ぎまわるとはどこの手の者。まさか猫島という事はあるまいが……」
ずんぐりとした身体の正面に一つ、さらには肩から飛び出した突起の先に一つずつ。
三つ目の悪魔ゴルバは威圧するように二本の爪を鳴らす。
「こんな場所では助けも入るまい。簡単に殺さず情報を聞き出すんだ」
夜の墓地。カミハルムイの都からはかなり遠く、大昔に作られ墓地であった。
体色の灰色と頭部の緑青色がゴルバと入れ違ったような四つ目悪魔ガルバは、ゆえに相棒にそう言ったのだ。
「答えると思うの」
追い詰められていたのは彼女だった。
浅緑の毛並みが泥にまみれていた。青い法衣は所々が裂けて血が滲んでいる。それでも瞳に宿った光は強さを失っていない。
「ふん、耳を伏せて怯えれば可愛げがあるものを、毒の激痛にのたうちながら後悔するがいい」
猛毒に濡れたガルバの爪がぬらりと月明かりに光る。
「甘くみないでよね。アタシは逃げ込んだんじゃない。こここそが目的地だったのよ!」
彼女の宣言に誘いこまれたかとゴルバが四つの目をぎょろぎょろと動かすが、援軍の気配すらも感じられない。
「アタシは正道猫魔道術の異端。疎まれ隠された猫死霊術の継承者……ベンガルクーンのカロリーンヌ・オフィーガン。お前達の相手はそう――ここにいるのよ!! 」
彼女はすでに召喚儀式の魔方陣を書き終えていた。
「猫死霊呪文《ニャロク》!!」
闇と静寂を圧する声と共に手にした杖を陣の中央に突き刺した。
(すごい! 今までとはパワーの桁が違う!!)
少し前にお借りした品々の成果を感じてカロリーンヌの全身を興奮が貫く。
見る間にぼこぼこと墓土が盛り上がり、それは文字通り飛び出していた。
太く短い骨格はドワーフの物だ。頑丈ながいこつとして戦力になる。
「なんだあれは!?」
「死霊術!? いやしかし様子が」
慌てる追っ手達の言葉にカロリーンヌ自身も異変を察知する。
空中で回転しながら骨であったものに内臓が、筋線維が、神経が、皮膚が次々と纏わりつき、墓穴から吸い上げられるようにボロボロの切れ端が衣服のように形作られていく。
蘇ったのはドワーフの男だった。そのまま吸い付くように無音で着地する。
「く、奇怪な!! やるぞガルバ」
「油断するなゴルバ」
脅威を感じた悪魔達が飛び出して襲い掛かる。
先行したゴルバが爪を振りかぶりながら直前に右に飛び、タイミングをずらしたガルバの一撃が突き入れられる。
同時にドワーフから見て左側からもゴルバの爪が襲い掛かる。
がドワーフはふわりと動いた。傍目からみればくるりと一回転しただけに見える。
だが二体の悪魔は突き出した腕を取られて、その勢いのままに投げつけられ、したたかに地面に身体を叩きつけられる。
「寝起きに失礼なやつらだな。というか……どこだここ?」
泡を吹く悪魔達には目もくれず周囲を見回すドワーフに、カロリーンヌは戦慄する。
(喋ってる……自意識を持った動く死者……猫死霊術が暴走したっ!)
コントロールを取り戻さなければ……次に転がるのはアタシかもしれない。
カロリーンヌの危機はいまだ去ってはいなかった。