DQ10と蒼天のソウラ関連の二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
◆◆◆はじまり(3)◆◆◆
確かにアタシはあらゆる手段を使った。
リュナンが誘拐されたと聞いた時、今度こそアタシが助けなきゃと決意したから。
メギドロームの事件の際には完全に出遅れたわ。
正統にて王道の猫魔導をゆく彼に比べて、アタシは異端の死霊術の家系。
幼き頃は共に魔法を学んだとしても……やがては離れる運命。そう思い込んでいた。
でも彼の受け継ぐ秘術を狙ったメギドロームによる拉致事件の報を聞いた時、アタシは本当のアタシを知った。
心臓が締め付けられて、がっくりと膝をついた。
目の前が真っ暗になって、この世の終わりを告げる鐘が鳴り続けるように頭が痛んだ。
そう。アタシはリュナンが好きだったんだ。
そんな事はあっちゃいけないと思い込もうとしていただけ……ずっとずっと好きだった。
絶望的な事実が、アタシの枷を無茶苦茶に叩き壊したのだ。
だからアタシは迷わない。誰に頼れなくとも、どんな力を使ってでも、彼を必ず救い出す。
「よくアタシの敵をやっつけたわね。褒めてあげるわ」
主従の関係が魔法によって構築されている可能性。それを探って言葉を選ぶ。
「んー? むぅ? あなただれでしたっけ?」
しげしげとこちらを見てくる推定アタシの手下に、敬いとか恐れがまるで見えない。ぴえん。
「アタシはアナタのマスター、カロリーンヌよ。アナタに仮初の命を与えた偉大な猫死霊術師」
ふふんと胸を張って威厳を見せつける。どうだ。恐れ慄くがいい。
「仮初の……ほう」
ふむふむと自分の身体を眺めるドワーフは合点がいったようだ。
「なるほど。僕はモンスターの先兵としてくさった死体系モンスターの仲間入りをしたわけか」
「理解したようで何よりだわ」
「「……」」
沈黙の中で視線だけが絡み合う。
「これも幸運というやつかな。理由はわからないけれど支配に失敗したようだ」
穏やかな声だった。ゆったりとした動きに見えた。
だがカロリーンヌの全身は総毛立つ。それは目に見えた殺意そのものであった。
「不浄の屍をさらして魔物の手先になるんて、美しさの欠片もないよなっ!」
「そっちの都合は聞いてあげられないわ! アタシにも助けるべきひとがいるもの!!」
魔法力を持って浮遊霊を圧縮するとカロリーンヌは怪火となして解き放つ。
「メラゾーマにも匹敵する呪炎呪文ソウゲンビよ! どうにゃ!」
これで動きを止めて秘蔵の魂縛符を使うしかない。先ほどの動きを見るに接近を許せば打つ手がないのは明白だった。
タンッ。
聞こえないはずの音が見えた。
ドワーフが地を蹴る動きが鮮烈に瞳に映りこむと、次の瞬間にその肢体は怪火の射線とすれ違う。
あるべきものがあるべきところへ。淀みなく流麗に眼前に辿り着くと、ドワーフの脚がふわりと振り上げられて手にした杖が天高く飛び上がっていく。
確かこの場所には何百年も前に戦い続けた歴戦の踊り子が永眠(ねむ)っていたはずだ。
それゆえ強力な手駒となるはずだったのだ。
だが、その力の圧倒的な恐怖は今まさにカロリーンヌに襲い掛かっていた。
(リュナンっ!)
絶望の中、ギュッと目を閉じて身を縮める彼女を、高く高く月が見下ろしていた。