DQ10と蒼天のソウラ関連の二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動についても私の妄想であり公認ではありません。
◆◆◆はじまり(4)◆◆◆
彼は定期的な夜間訓練を欠かしたことがない。
それは己が己であるために必要な一要素であったから。
身を潜めて機を待つ事も訓練の一部であった。
だからきっとそれは偶然だったのだろう。彼の検知可能範囲内でそれが起こっていたのは。
月は見下ろしていた。
そして彼は……聞いていたのだ。
(魔物による内輪もめ。勢力争い……)
想定されるのはあえて関わる必要性の低い事態。
だが、彼の勘が囁きかける。
動き出せ。アレを止めろ。彼女を助けろ。
不合理な気の迷いだ。介入するとしてもむしろ死の尊厳を保とうとするドワーフにこそのはずだ。
だが彼女は叫んだ。助けるべきひとと。
(ここ一番での勘を軽んじて破滅したプロは少なくない、か)
ほんの少しだけ笑みらしきものを浮かべると、彼は隠形を解く。
風のざわめきに、夜鳥の泣き声に紛れるような疾走。黒い衣装は細くしなやかに鍛えられたエルフの肉体を風景へと溶け込ませる。
完全な奇襲だった。死角から飛び出して狙い違えず関節を捉える。
その直前、彼は弾かれるように距離をとって右手に短剣を握っていた。
ドワーフは燃えるような赤い瞳で彼を、フツキを正面から見据えている。
蹴り飛ばされたのか魔物の方は数メートル先で倒れ込んでいた。
「短剣か。うん、ちょうどそれくらいの得物があれば完璧にカウンターを入れられたと思うんだけどね」
「……かもしれないな。だが現実、得物はこちらにある」
ドワーフとフツキが互いを見定める。それだけで虫の音も夜鳥の声も消えていた。
「個人的な提案だが、この場の戦いを収めたい。先ほどは緊急時ゆえに取り押さえようと考えた」
「ロマンチックな提案だ。まずは話し合おう、か……悪くはない。僕が動く死体でなければ」
どこか懐かしむように瞳を細めたドワーフだが、続く言葉は拒絶であった。
「実をいうと自分が何者かもわからない。災いになる前に始末をつけさせてはくれないか?」
命のやり取りを知る決意のこもった眼だった。
他種族の実年齢は分かりにくいものだが、蓄えた髭に見て取れるように人生の先達の重みがあった
「だ…め、よ。アタシはアンタに賭けるしかない、んだから!」
杖を突いてよろよろと身を起こすカロリーンヌ。
フツキは自らの答えを決めて一歩を踏み出した。