DQ10と蒼天のソウラ関連の二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動についても私の妄想であり公認ではありません。
◆◆◆はじまり(6)◆◆◆
この状態に持ち込まれた時点でアタシの負けだった。
魔法の撃ち合いならまだしも抑え込まれては抗う手段が残っていない。
いや、諦めちゃいけない。その決心だけは揺るがせないの。
だってリュナンを助けるのはアタシなんだから!
同情でも何でもいい。こいつの気をひいて納得させられるなら……。
「幼馴染を助けるためには、アタシにはこの力しかなかったのよ」
計算を働かせる。正しい事をしているように聞こえるように。
「アタシの家系は死霊呪文が専門よ。魔物の中ですら胡散臭がったり気味悪がるやつがいるようなね。だから一人でやるしかないじゃない……」
せざるを得ない。追い詰められていたんだと思ってもらう。
「リュナンはちゃんとしたやつなの。努力家で、気遣いも出来て、手にしている大きな力にだって責任を持とうとしている。少し前だって邪悪な術師には力を授けられないって拒否して拉致されたのよ! バカみたいに……いいやつなの」
アストルティアの民が聞いても、信頼できそうな情報を開示する。
「そんなやつだから。その時はアストルティアの魔法使いが助力してくれたみたい。安心して……悔しかった」
そう。悔しくて、悔しくてしかたなかった。
「どうして、アタシ達を、同族を頼ってくれなかったのって! もっと早くに相談してくれても良かったのにって!!」
気持ちがぐちゃぐちゃになる。感情が昂って、涙が滲んで、思考が乱れていく。
「だから今度はアタシが助けてあげるのよ。そのために頑張ってるの! お願いだから邪魔しないでよ」
一度零れた涙は堰を切ったように流れだす。計算は洗い流され、感情のままに子供のようにばたばたと暴れる自分をもう止められない。
自分の言葉に激情を掻き立てられた魔物――直立する猫の魔法使いベンガルクーンが、わぁわぁと泣いている姿にはさすがのフツキも困惑する。
「わかった。それぐらいでいい。自分の名前は言えるか? 俺はフツキだ」
いざとなったら魔法より早く動ける距離を保ちながらも、フツキは拘束を解いて彼女が立ち上がるのに手を貸す。
こしこしと猫らしく顔を拭って、鼻声のまま彼女はカロリーンヌよと名を告げる。
「カロリーンヌ、君の始末は一度保留する」
「ふへっ!?」
そういえばそういう話だった。途中で冷静さを失ってしまったが、そもそもは命の危機だったのだ。
「ほ、本当にゃ!?」
「無罪放免ではない。ドワーフの事も放ってはおけないしな。そもそも記憶を無くしているような事を言っていたが、個人の意識があるとするなら……その意思を無視はできない」
言い募られてぬぐぅと唸るカロリーンヌは考え込んでいるようだ。
しかしその点はフツキとて同じだった。死者の力を借りる者は、自分たち冒険者達の中にも少数ながらいると聞く。しかし彼らが使役するのは『個人』ではないはずだ。
「確認するが彼の状態は意図したものでなく暴走なのか?」
「ええ、能力として強力ながいこつを作り出すつもりだったんだもの。肉体と意識を持つなんて強力すぎるわ」
フツキとしてはますます放って置けない状況である。
「とにかく、とりあえず場所を変えましょう。こいつがぶっ飛ばしてくれたけどアタシ追っ手をかけられてたんだから。あ、ついてくるように命令出すからね。いいわよね?」
念入りに確認する彼女にフツキが許可を与えると、一匹と一人と遺体(いったい)は夜道を静かに歩き始めたのだった。