DQ10と蒼天のソウラ関連の二次創作です。
独自解釈、設定の齟齬、改変を含むものですのでご注意ください。
登場するキャラクターの言動についても私の妄想であり公認ではありません。
◆◆◆それぞれ(1)◆◆◆
どこかで――
「取り逃がしただと?」
「平に平にご容赦ください。ペゴワッド様」
「経緯は分かりませぬがエルフの男と合流したあと、ぷつりと足取りが……」
平伏するゴルバとガルバは視線を上げる事が出来なかった。
そこにいるのはリュナンを拉致した組織《星を打つ者》(コルピシ・ラ・ステラ)の首魁に他ならぬから。
「ふーむ。猫島襲撃の後に素早く地に潜ったのはアストルティアの民共に気づかれぬため。今はまだモンスター同士の内輪もめと思わせておきたいがゆえよ」
それは巨岩と言い表して差し支えない筋肉に守られた巨体であった。
石柱よりも太い四本の腕の一本で顎を撫でるとペゴワッドはむうと唸る。
「それがエルフとか。しかもドワーフの死体を扱ったとなると……小鼠一匹と侮るわけにはいかぬか」
双角の兜から巨人の一つ目がぎょろりと二匹を睨め付ける。
「ノンノン! あいては子猫ちゃんデース」
これまでかと震える二匹の緊張とは裏腹に甲高い声でチャチャを入れたのは、ゆらゆらと黄色く燃える魂のような姿の魔物だった。
「混ぜっ返すなシャモドッキ。いや……声を上げたからにはおまえが動くつもりか?」
「しょうがないデスネ! ワタシがやります。モンスター退治は専門家にお願いしてみるデース!」
ケケケケと笑いながらシャモドッキの姿は揺らめき歪み老紳士の形へと変わっていく。
人の姿に化ける能力に長けたマネマネという魔物こそがシャモドッキなのだ。
「あ、あの……俺達は……」
恐る恐る顔を上げるガルバ達に向かってペゴワッドはひらひらと手を振って退室を促す。
「出来るだけ詳しくシャモドッキに情報を伝えるのだ。見た事、聞いた事欠片も残さずにな」
「は、ははー」
「分かりました!」
スキップで立ち去るシャモドッキを追いかける二匹を眺めペゴワッドは重々しく息を吐く。
「ネルゲル様の誕生は喜ばしい。だがその礎となったラズバーン様一派の勢力がこれほどまでに小さくなったとは……五百年の時の流れ、甘く見れんな」
そしてなればこそ、今一度権勢を取り戻すためには粗野粗暴に振舞うわけにはいかない。
人員も、計画も、無駄なく使う。ペゴワッドは拳を握って己に言い聞かせるのだった。
「もどったぞなもし」
「さっそく仕事をしてもらって悪いな。で、どうだった?」
喧噪渦巻く下町の酒場で、今回の依頼でパーティを組んだ黒づくめのウェディ男性に帽子とマフラーを着けた男が杯を渡す。
テーブルで待っていたのは危険と火薬の匂いをわずかに纏うマージン
向かい合って座ったのは鳥を模したフォルムのフルートだ。
周囲の雑談に混ざるような絶妙な声で、依頼についてひとまずは嘘がない事を告げる。
「不自然な荒らされ方をした墓には遺骨、遺品もなく。掘り返したにしては不審な点が多いか」
「同じパターンとしてカミハルムイに住むドワーフも番所を通じて世界宿屋協会や、冒険者の酒場に情報を提供しているぞな」
「遺体を呼び起こした確率は高いな」
二人の依頼人であるマネマ氏も同様に祖先の墓を荒されており、犯人であるモンスターの不敬極まるベンガルクーンの討伐を望んでいる。
であるならば情報を掴んで個人的な依頼を出すことは不可能ではない。
「問題ない……か?」
「己の場合は、そもそも何かが引っかかる依頼主は日常茶飯事ぞなもし」
「言われてみれば俺もそういう心当たりが多数だな」
爆発物のスペシャリストと隠密暗殺技術の結晶。
冒険者の中でも危険視されかねない二人の男は、仕事開始の勢いづけとばかりに酒杯を合わせる。
ちなみに口元までマスクで覆うフルートの貴重な唇を拝む機会であったが、男二人きっりなので特に何も起きなかった。
さらにどこか――
「プラクゥ。開発を中止したスタンドアローンの学習型キラーマシンが残っていたろう。使えないか」
「急になんじゃエストリス。ゾフィーヌまで伴って」
「盗まれたゾフィーヌの資料を取り返したいんだよ。とはえい僕はこれ以上手を回してられない」
「うー。すまぬのであーる」
しょぼくれる大男を胡乱な瞳で見つめて魔工技師の名を持つ半機械の老人プラクゥは、奥の扉を指し示す。
「インプリンティングシステム……i-system型は残っておるが……手本となる親が必要じゃぞえ? 当てはあるのかの」
「まあ、人を使う事を覚えるにはちょうどいい頃合いかと思ってたしね」
問われたエストリスは口元を隠して笑ったのだった。