蒼天のソウラを含む二次創作です。
◆◆虜囚の少女◆◆
「なんでアタシは山奥で精神修養しようなんて思ってしまったのです」
牢屋の隅っこで膝折ったエルフの少女は割と半泣きだった。
実家の蔵で眠っていた書の冒険譚に憧れ、あれこれと鍛錬を重ねる中、不幸にもこの場所に迷い込んだ。
さらには幻魔を呼ぶ暇もなく捕らえられて武装解除されてしまったので、見張りのホースデビルも気が抜けた風である。
もしかしたらチャンスかもしれない。
あの子がいう事を聞いてくれるなら逃げ出すことが出来るかもしれない。
エルフの少女が決意を固めようとしたその時、ガルバが慌てた様子で駆け込んでくる。
「ど、どうした!?」
「この拠点を探っているやつらの痕跡があった。いま捜索隊の編成中だ。く、リュナンの移送を考えねばならんかもしれん」
「え、リュナンは……」
「黙って聞け! とりあえずここは施錠を確認しておまえも来いっ」
「あ、ああ」
大慌てする魔物達を呆気に取られて見ていた少女は一人ぽつんと取り残される。
「はっ!? 今こそチャンスです。出でよカカっ」
ココンッ。
大仰な身振りをしようとした少女の目の前をクシャクシャに丸められた紙が通り過ぎる。
細い空気穴をどうやって投げ入れたのか?
スローイング技術にびっくりしながらも手に取って広げてみると、小石を包んだ紙には空気穴から離れて耳を塞いで縮こまるべしと書かれてある。
賢明な読者は察した事だろう。
だが少女は何も知らないのだ。狐に包まれたような顔でとりあえず言われたとおりにしてみること数秒。
なんだか間が抜けてない?と疑問が湧いた瞬間。
轟音と共に壁が崩れて二人の男がよっはっと姿を現したのだった。
「ありがとうございます。マージンさん、フルートさん」
急襲からの即時撤退。
虜囚が彼女だけだったことを鑑みて二人の男はそう決めた。
とりあえず二人が目星をつけていた隠れ場所に全力で逃げ込むと、息を切らしながらやっと少女は恩人たちに礼を述べる事が出来た。
「いやーまだ安心とは言えないけどねー。というかもでちゃん結構走れるね? やっぱり冒険者? その服も冒険者仕様だよね?」
「エルトナで人気を博した夜狐と言われるアレンジ着物。最近は各大陸でも人気急上昇中ぞなもし」
「わー。お詳しいんですね。って、いえいえ、そんな話題で盛り上がってる場合じゃないのでは!?」
もでちゃんとさっそくあだ名をつけられたエルフ少女、もでらーとはふにゃりと笑顔を見せかけて、慌ててつっこみを入れる。
「おー肩の力が抜けてきた? んじゃ、深呼吸してー」
「先ほども名乗ったがフルートとマージンぞなもし。クエスト内容は先ほどの拠点の発見であったが、今からは追手からの逃走に派生したと考えてるぞな」
「という事で情報交換だ。知ってる事出来る事を知らないとな! ちなみに俺は爆破が大好きだし上手だぜ」
「んふっ!?」
すーはーっと吸って吐いてをくり返していたもでらーとが咽るのを、やれやれとフルートが背をさすってやる。
「己は……潜入や斥候に長けているのと、得物はこれぞな」
刃を備えたブーメランを取り出して見せるフルートからは、熟練の冒険者の雰囲気が漂っている。
「故あってリュナンというねこまどう救出の手助け中ぞな」
そして圧となりうるその気配を薄めるように、ゴーグルの奥、僅かに目元で笑って見せるあたりがウェディの男性らしい心配りだ。
「あ、アタシはそのカカロン使いです」
「ん? 天地雷鳴士ではなくて?」
「えっと、その独学なので……正式な天地雷鳴士というわけでもなくてですね。ってそれは置いておいてですね。フルートさん今リュナンって言いましたよね」
マージンから向き直った少女にふむと頷くフルート。
「アタシそれ聞きました! ここから移送しなきゃだめかもって話!」
「フルっちどうする?」
マージンの瞳に本気が宿る。だがフルートは首を横に振った。
山刈りに出した人数を考えて、このまま三人での救出はリスクが高すぎる。
「マージン。彼女を頼めるぞなもし? 己は単独で時間稼ぎと監視ぞな」
「……わかった。必要な物は?」
「時限式のものを4……いや3つよろしくぞな」
単身の身軽さと陽動にも使える手段を確保するとフルートは音もなく跳ね上がり、見る間にもでらーとの視界から消え失せる。
「大丈夫なんですか?」
「下手すると俺達よりは大丈夫かもしれない。よし、行くぞもでちゃん」
活劇の王道が一つ愛の逃避行。ちょっぴりそれっぽいなぁと片隅に浮かんだ邪念を小爆破して、マージンはくいっと帽子を整えると先導役を務めるのだった。