シルファーは、ユキ宅が苦手だった。
理由は大きく分けてふたつ。
シルファー「おじゃましま・・・、あーもう、相変わらず暗いなぁ。」
とにかく家の中は暗く、ゆっくり歩かなければ色々なものにぶつかりかねないため、余計なものは置いてないのかといえば、そうでもなかった。
シルファー「使いもしない職人どうぐ一式、どうでもいい場所に柱、一人で住んでるくせにでかいテーブル・・・」
ぶつぶつ言いながら壁をたよりに階段を探すシルファー。
物音が聞こえないため、ユキがいるというあては外れたようだが、一応2階にも行ってみることにする。
ライトの場所すらわからないため、その足取りは慎重極まりない。
するとようやく、のぼり段差が足にぶつかる。階段の発見である。ここもまた、1段1段慎重に登っていく。
ちょうど十数段のぼり、ようやく2階についたのを確認した。
その瞬間だった。
「火事だァァァァ!!」
シルファー「ぎゃあああああ!!!」
【くるとわかっていた声】だというのに、やはり驚いてしまう。
野太く、迷惑極まりないボリュームの叫び。
この家が苦手な理由、そのもうひとつが、そのコンシェルジュ。
ゴッドマザーの存在だった。
ゴッドマザー「はっ、夢か!・・・・以上がユキ様からの伝言です。」
もちろん火などはたっておらず、ユキが客人用に面白半分でしかけた伝言である。
火事という内容よりも
この外見と分厚い声量で驚かせるのが目的だ。
そしてその周辺に設置されたかんおけやマドハンド像が、そのコンシェルジュの恐怖感を引き立てていた。
ユキの趣味の悪さに呆れつつ、本来の目的を聞いてみる。
シルファー「・・・・ユキ、見なかった?」
この環境のせいといわんばかりに、口調は暗い。
だが聞かれたコンシェルジュはその仕事柄か、口調に明暗を分けることなく、落ち着いて答える。
ゴッドマザー「ユキ様なら今朝出掛けられたようですが、行き先は告げられないままでしたね。」
シルファー「そっか・・・。参ったなぁ、見当がつかないよ。」
家にいる可能性も潰れ、その先の行き先もわからず、うなだれるシルファー。
そこへゴッドマザーが静かに口を開く。
ゴッドマザー「シルファー様の前では、ユキ様は元気でいらっしゃいますか?」
言葉の意図は掴めないが、シルファーはありのままを返す。
シルファー「う、うん。なにもおかしなとこはないけど?」
ゴッドマザー「そうでございますか。」
安心したような不安なような顔でゴッドマザーは頷くが、それすらシルファーにはわけのわからないしぐさであった。
シルファー「とりあえず、いないなら仕方ないね。」
そう言ってまた、ゆっくりと来た道を帰っていく。
その姿を、ゴッドマザーは一言つぶやいて見送る。
ゴッドマザー「ユキ様を、よろしくお願いいたします。」
いつもと違う挨拶であったが、悩みに暮れるシルファーの関する所ではなかった。
この時点ではただ、シルファーは【嫌な夢を見た】だけなのだ。
だが、それにまるで突き動かされるように、不安を抱えたまはま彼を探すのだ。
シルファー(すぐに見つかれば、こんな不安なんか・・・)
と思いかけて疑う。
果たしてそうだろうか?
夢を見ただけで必死に探すほどの不安など、そうあったものではない。
まだ見ぬ、まだ起こらぬ何かを、シルファーに無理矢理にも予感させていたのだ。
ルーラストーンで家の前に降り立ち、まず目にしたのはボストの手紙。
8割、9割方がバザーの売り上げやスペシャルふくびき等であるが、普段見るものとは明らかに外見が違った。
そして差出人を見て、うなだれていた顔が瞬時に上がる。
シルファー「ユキから・・・!?」
最も期待していた名前が、そこにはあった。