聞いた直後は、「えっ、両手剣と剣盾を両立できなくなるのは困る!」と思ったけれど、例によって、時間がたったら納得がきた。
以下、現状はっきりした情報がないなかで、「たぶんこんな感じだろう」くらいの話をするよ。
この変更にはいろいろな理由があるだろうけど(新規ユーザーが実戦的なキャラを作りやすくするなど)、
「両手剣と剣盾とゆうかんスキルをすべてマックスで『振れない』ようにしたい」
という意図ははっきりあるだろうと思う。
そしてゲームデザイン論としては、全スキルラインをマックスで振れないことは 正しい のです。
もし私がディレクターで、下からこのアイデアが上がってきたら、「たしかにそうだ」と納得して、採用すると思う。
「ゲーム作りとはなんぞや」
ということに答えられる立場ではないけれど、重要なポイントの一つとして、「トレードオフを作る」ということはあるといえるだろう。
メリットをつかんだら、そのぶんデメリットを抱え込む。
片方を選んだら、もう片方は選べない。
という状況を常に繰り出していき、その選択の幅のなかでユーザーをゆらゆらさせつつ、ユーザーに「選択した主体としての自分」をくっきり意識させる。「こっちの道を選んだおれだ」という物語が輪郭をもつのですね。
ドラクエは、だいたいそういう感じでスキルラインを作ってある。初期や中期でいえば、「魔力かくせいを取ったら暴走魔法陣はとれない」「コドラゴラムをとったらタイガークローはとれない」「うたに振ったらおどりには振れない」などなど。
しかしドラクエは、自己を成長させていくゲームでもあるので、成長したらスキルポイントがどんどん獲得できていくのでなければならない。
スキルポイントが増えたら、それまで両立できなかったものが、できるようになってしまう。今では、魔力かくせいと暴走魔法陣を両方持っているなんてあたりまえですよねえ。
それはユーザーにとってはうれしいけれど、裏を返せば、「魅力あるトレードオフがなくなってしまった」ということでもあるわけだ。
だから、新技の追加ということがあるのです。
スキルラインの深部に、新たな魅力あるスキルを実装する。そうすることで、「この新スキルを取ろうと思ったら、他のスキルをあきらめなきゃいけない」という状態をつくる。新スキルの追加とは、新たなトレードオフの追加でもあるのです。ドラクエ10の運営は、ゲーム作りのプロだから、当然そういうことを考えている。
しかし。ドラクエ10も7年やってきて、レベル上限も110になり、スキルポイントも大量に入手できるようになってしまった。
やろうと思えば、両手剣と片手剣と盾をすべて200まで振り、ゆうかんを180まで振れるようになってしまった。
それって一職で見れば、「トレードオフはない」ということであり、「戦士を極めた人たちの間では、キャラの差がない」ということになる。キャラの差がないということは、「取り替えのきかないおれ、というものはない」ということになる。
もちろん、そこまで極めたキャラを実現したということは、他の職業のいくつかがまったく使用不能になっているはずだ。そういう意味では、マクロな意味でのトレードオフはある(そういうトレードオフを強いるというデザインになっている)。
しかし、職業もかなり多種になってきた結果、「私、この職業、全然やりたくない」ということも増えているはずだ。全然やりたくない職業のスキルポイントをつぶして、やりたい職業に振り分けるのは、実はトレードオフになっていない。
それって問題だな、と、運営側は認識したはずです。マクロな意味でもトレードオフになっていないし、一職を見てもトレードオフになってない。
これまで通り、スキルラインの深部に新スキルを追加してトレードオフを作っていくにも限界がある。
端的にいってきりがないし、「スキルラインが無限に長くなり、新スキル取得までレベル上げするのがまったく容易ではない」という状態をつくってしまう。新スキル取得が容易ではないのは、それは新規ユーザーが実戦レベルのキャラを作ることが容易ではないということを意味する。
今回のスキルポイント制度の変更は、スキルラインの少年ジャンプ的インフレを抑制することができるし、一職の中でトレードオフを作ることができる。
私も最初は、「うわ、困る」と思ったのだけど、しばらくしてから、
「両手剣に200まで振ったら、剣盾に150ずつまでしか振れないのは面白い」
という感覚がきた。アイギスは切ってもいいなとか、プラズマは2まででもいいかなとか、それだとFBとの足並みが揃わないなとか、考える余地が増えたと感じる。
(コメント欄に続く)