竜王は知らぬと言い張っていたが、ネルゲルの執拗な問い詰めに観念し答えた。
【エトワールは我が子ではなく我が魂の一部で我がストックとして作られた存在】
確かに創世の力を秘密にする為にそう言っていた。そしてそれを竜王が息子に教え、それを信じた息子が我の身代わりで魂を入れ換え砕けたのだ。
めまいがした。
あの甘えん坊で泣き虫が、まさか自ら我の身代わりになろうとは!
「竜王よ、エトワールは我が実の子であり我がストック等ではない」
「ん?実の子?魂の欠片で作ったストックだと言っていただろう?」
「本当の子が欲しくてな、マデサゴーラに我が遺伝子を預けたのだ」
「遺伝子を?…なるほど、では本当の子だったかのか!」
竜王は困ったように暫く考え、小さな玉を取り出してネルゲルに渡した。
「これは?」
「それは竜の玉だ魂の入れ換えに使える、本当の体を復活する時使うがいい」
「感謝する」
ネルゲルは竜王の玉を受け取り冥界の城へと戻った。
そして部屋に戻った瞬間、怒りながら愚痴た。
なぜ信じたのだ!!エトワールよ!
我が息子をストックに使うと?
バカ息子よ!!
必ず生き返らせ、わからせねばならぬ!
貴様は我が息子なのだ!
我が遺伝子を受け継いでいるというのに!この大バカめがっ!!
【があああっ!!】
ネルゲルは怒り叫んだ。
「フフッ、君がそんな風に憤るなんて…意外だよ?」
その時、背後から闇の根源が現れた。
「何しに来たのだ?」
「君の息子が面白くてね、実はボクが復活させてるんだ」
「我が子はどこにいるのだ!?」
どうりで死した息子を探せぬ筈だ。
「君がエトワールをストックとして扱うならボクが貰おうかと思ってたけど違うみたいだし返してあげよう」
その言葉と共に闇の根源は消え去り息子が目の前に現れた。
「父さんっ!我は遺伝子を持った息子なのか?」
そこにはネルゲルの体で復活した息子が涙を流し立っていた。
「エトワール……」
ネルゲルはポツリと一言、名を呼んだ。
「と、父さんっ!父さんっ!我が見えるのか?我はずっと会いたかったのだ〜〜」
泣きながらエトワールは自分の体に入ったネルゲルに抱きつこうとした。
ネルゲルはそんなエトワールを抱きしめ?
いや、殴り飛ばした。
【ガキィ!!】
ネルゲルの体に入った息子が殴られ勢い良く床に転がっていく。
端から見れば、息子がネルゲルを殴り飛ばした図である。
人が見ていればかなり驚きの場面である。
エトワールは呆然としながら父を見た。唇が切れて血の味がする。
「と、父さんっ?」
ネルゲルは苦しげに息子の襟を掴み、再び拳を振り上げた。
「っ!!」
エトワールは震えながらすがるように父を見る。
ネルゲルは拳を下ろした。
息子の体だからだろうか?
涙が溢れて止まらない。
「っ、うっ、ぐううっ…!」
ネルゲルは息子の前で声を出し泣いた。
「なっ、泣かないで……父さんっ!」
エトワールは必死に父を抱きしめた。
「父さんっ、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!」
我は、父さんに愛されていたのだ!!
エトワールとネルゲルは暫く泣いた。
そして、ネルゲルは息子に竜王の玉を使った。
二人の魂が本来の体へと戻っていく。
ネルゲル→自分で、殴り飛ばした頬が痛い。そして、何やら凄まじい力が体を満たしている。これが我が体か?
エトワール→わあ!?我の体があり得ない程、力が溢れて引き締まってる!
これが我の体?
そして、二人同時に喋る。
「貴様…我が体で何をしたのだ?」
「父さんが入ると、こんなに強くなれっ……え?」
何をした?父の言葉にエトワールは焦った。父の体で鏡に向かい自分の名を呼び誉めまくっていたり、闇の根源に甘えて力を貰ったり、色々な衣装を着たり色々やらかしたか気がする。
「と、父さん…知らない方がいい事もあるかもなのだ…」
ネルゲルは絶句した。こやつ…我が体で何をやらかしたのだ?
「そ、それより我は本当に一部ではなく父さんの遺伝子で生まれたのか?」
「そうだ」
「な、なら、もしかして母はマデサゴーラなのか?」
エトワールは震える声で問いかけた。
あまりのあり得ない発想にネルゲルは久しぶりに笑った。
「片腹痛い!」
いつの間にかこの片腹痛いが口癖になっていた。
「マデサゴーラが聞いたらどんな顔をするか、楽しみだな?」
「甦るのか?」
「この力があれば魂を回収出来よう…必ず復活させ、全力で戦わねばならぬ」
エトワールは頷いた。
「さて、我が子よ明日より特訓をするぞ?」
「いや、父よ…今から特訓をしたいのだ。そう、我は強くならねばならぬ!我は父さんを、父を必ず守る!」
ネルゲルは驚いた。
我が子が成長する、なんと嬉しい事か。
これは負けてはおられぬ。
ネルゲルは楽しげに微笑んだ。
END