ネルゲルは荒れ果てた玉座に座っていた。
「ネルゲル様…お城、修復しないのですか?」
城に住むスライムの僕はネルゲルに問いかけた。
「そのままで良いのだ…」
ネルゲル様は必ずそう答える。
ぼろぼろに荒れ果てた城。
ネルゲル様に命じられたら喜んで城を修復する部下は沢山いるのに…
僕は不思議だった。ベリアルおじさんも城を修復したくてウズウズしている仲間の一人だ。
「ネルゲル様にはもっと相応しい豪華な城が似合うと思うのだ〜」
僕もそう思う。せめて玉座を綺麗に掃除しよう!その日は皆で競って掃除した。
ネルゲル様は瓦礫だけど、埃のない部屋に満足したのか、僕の頭を撫でてくれた。ベリアルおじさんがそれを羨ましそうに見ている。
これはスライムの特権かもしれないとニンマリと笑った。
ネルゲル様は今日も玉座に座り、魔界から来る同盟相手と取引したり、政務が慌ただしい1日だった。疲れたネルゲル様は珍しく玉座にて、うたた寝していた。
「……ン」
ネルゲル様が何か言った気がして近付いた。
「ラズバーン……」
ラズバーン………
確かにその名をネルゲル様は言った。ネルゲル様が誕生する前から僕はラズバーン様に仕えていた。
まだ誕生してないネルゲル様の棺にラズバーン様は何度も話しかけていた。
もしや、覚えているのだろうか?
ジワリと目からポロポロと涙が溢れ出した。
ラズバーン様にネルゲル様を見て欲しかった。凄く立派な我らの冥王様。
たまに僕の頭を優しく撫でてくれる。
部下がケガしてもベホマで治してくれる。そんな優しい冥王様が僕は大好きだ。
そして、その日が来た。
この城にとうとう人間が攻めて来た。
僕はスライムで一瞬で殺されるだろうけど、ネルゲル様の為なら死んでも構わない。そう思って意気込んでいた僕をネルゲル様は玉座の後ろの箱に閉じ込めた。
ベリアルおじさんも、出てくるなよ?と僕に声をかける。
僕も役に立ちたい!
何とか鍵穴から外が見えるけど、通るには小さすぎる。激しい戦闘の音
そして、静かになった。
ネルゲル様の力がなくなり箱は開いた。
誰もいない…。
尊敬する冥王様…
優しいベリアルおじさん…
城の仲間達。
ねぇ…?冥王様が死んだら
どこへ行くの?
誰もいない空に問いかけた。
あれから数日
荒れた城に僕はいる。
どこからか、新たな仲間が城に住み出した。
そして、問いかけられる。
「お城、修復しないのですか?」
僕は答える。
「このままで……いい」
今ならわかる、ネルゲル様は…
この思い出の城を愛してたのだ…
ラズバーン様が頑張って作ったネルゲル様の城
ネルゲル様……僕の主よ……
僕は皆の墓は作らない……
いずれ必ず復活するって信じてるから
だって、ここは死を司る場所。
冥王様の世界だから…
今日も僕は玉座を綺麗に掃除する。
いつかまた頭を撫でて欲しいから…
完
前に書いてたのを紹介☆
良ければ見てね!