1
『とある森には普段でも辿り着くことはできるものの入店することは叶わない「妖精さん」と呼ばれる者が宿る店があるそうだ。
そこに入店するためには月に一度の「訪れることができる日」と言われる日、時間にそこへ訪れる必要があり該当する時間にはそこでカフェスタイルの店が開かれている。』
これはいつだったかに営業へ出向いた先で耳にしたなんとも興味深い噂話を私なりに集約したものである。
ロマンチックな文句の、御伽話のような信憑性の定かでは無い噂話ではあったものの
何故だかそれが私の琴線に触れたのだろう。
私は導かれるようにその店の『次に訪れることができる日』を探っていた。
2
店の情報は案外近くで見つかり、
それから数日後の某日、私は店があるとされる森を訪れていた。
森はいつもと少し異なった雰囲気を醸し出して居てなんとなく不思議な心持ちになる。
しばらく歩いてみると少し前まで森の中にいたのだと言うことを忘れさせるような視界の開けた湿原に出ていた。
果たしていつの間にこのような場所に来ていたのだろうか?
少しの疑問を抱きながらふと前方を見やると幽遠な趣きの巨木がそこにただずんでいる。
巨木の枝々や庭先に薄っすらと降り積もった雪が星明りを反射させ幻想的な光を纏わせ自らの周囲を微かな光で照らしている。
その光景はまるで己の存在を他に知らせているかのようだった。
と、不意に客引きをしていたエルフのスタッフが愛想の良い親しみやすい笑顔で私に声を掛けてくれた。
「ようこそPrincess☆Welfへ!どうぞ中へお入り下さい。」
続くウェディのスタッフもどうぞ、と道を開けお辞儀をする。
なるほど、それがこの店の店名か、
見れば常連らしい客も幾人か訪れているようで挨拶を交わし店内へと歩みを進めている。
私も案内をしてくれたスタッフに礼を言って入店してみることにした。
3
店内へ入るとどこからか入店するものを出迎える声が聞こえたのだが、その声を聞き届ける間も無く店内の賑わいにかき消されてしまった。
しかし声の主はここにいるような気がしたので「お邪魔します」と断りを入れて店の賑わいへ混ざることにした。
店内はエルフの客が多いようではあったものの辺りを見渡せば多様な種族の客が来店して居ることが見て取れる。
その客人達をエルトナ風の内装に見合った装束を着こなしたエルフとウェディのスタッフ達が明るく、その場にいる者を元気づけるような対応でそれぞれに会話を弾ませていた。
機巧仕掛けであると思われる鶏の玩具や壁に備えられた本棚、各テーブルで振舞われている料理など私の興味を引くものは多かったがなかでも興味をそそられたのは店内のほぼ中央、客からの注目を多く集めることができるであろう場所に位置するピアノだった。
ここで何か芸を披露することがあるのだろうか?と考えを巡らせて居ると
先程店先で私の案内をしてくれたエルフのスタッフが横へ来て相手をしてくれた。
たわいない会話の合間に彼(彼、と呼んでも良いのか迷うところがあったが見たところ男性のようだったのでそう呼ばせていただく)から思い出したかのように絵葉書を手渡された。
絵葉書は彼の名刺のようになって居てそこには詩のように彼の紹介文が綴られていた。
ふむ、このような形の名刺もまた良い味を出すものだ、私も試しに作ってみようか?
良いものを頂いたと礼を言うと彼は嬉しそうに笑ってくれた。
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