4
その後も彼との会話を楽しんでいると『ショータイム』と呼ばれる時間になったらしい
彼とは別のエルフのスタッフがそれの案内を始める。
隣を見れば彼もそれを楽しみにしていたかのように拍手を送っている。
芸を鑑賞するのに邪魔になっては気が引けてしまうので彼に相手をしてくれたお礼を言ってから少し離れたところへ移動しその演目を鑑賞させて頂いた。
『店姫』と呼ばれたエルフとウェディの送り手はそれぞれに異なった趣向の歌を自らの舞に合わせて披露し場を湧かせた。
どちらの店姫の作品からも学ぶことが多くあり私には表すことのできないような華やぎと個性を持っていてその魅力を最大限に引き出せていたように感じた。
ショータイムも終わり作品を見せていただいた店姫のお二方に感謝と感想を伝えその場から離れると興奮冷めやらぬ店内の一角、立ち入りが禁止されているスロープの辺りを見やった。
5
何故だろう、少し前からそこにこちらを伺う気配が感じられるのだ。
良く良く目を凝らして見ると何かぼんやりと、人影のようなものが見て取れる。
他の人々に怪しまれないような位置まで近寄るとその人影の姿形がある程度わかってきた。
人影は小柄のエルフのような姿を取って居て、纏う気配は妖精のそれに似ていたのだがそれとは別の気配も感じられた。
恐らくこの者が店に宿る『妖精さん』と呼ばれる存在なのだろう。
妖精さんは怯えた様な瞳で柵の外を……いや、私か、を見つめている。
うむ…悪いことをした……
他人から見た私と言うのは無愛想で冷ややかな印象を与えるようで、この様に怯えられてしまう事が多々ある。
その上今回の相手は妖精さんだ。
魔族的な外見や前者の理由に加えて、霊的な存在を呼び出し、時には導く事をも行う私を感じ取り本能的な恐怖を覚えたのかもしれない。
何はともあれ怯えさせたままでここを離れるわけにも行かないし、この店に来た理由の一つは
『ここが他にとって悪影響を与えるか否か』を調べる為でもある。
妖精との対話ならば私の兄の方が得意なのだろうが普段の会話と基本的な所は変わらない。
柔らかな言葉を選びつつ、周囲に悟られぬよう語りかけてみた
すると妖精さんは驚いた様子で恐れを抱いたような、
それでいてどこか喜色を帯びた声音で静かに応答をしてくれた。
「もしかして私が見えて居るのですか…?」
「うむ…見えて居るといえば見えているし見えて居ないと言えば見えて居ない…
しかしあなたがここにある事は感じられる……なんと言ったものか…私からはぼんやりとあなたが見えて居ります。」
その問いに適当な語句を選びながらありのまま、私から見た妖精さんの姿を伝える。
兄と来店していれば靄がかった気配が取れもっとはっきりとその姿を見ることができたのだろうが……まぁそこは良いだろう。
「そう…ですか……最近また見えなくなったと言われるので………良かった……。」
安堵の表情を見せる妖精さんに私は先程から気になっていた事を問いかけてみる。
自分の視認し易さを気にする妖精さんが不思議に思えたのだ。
「あなたは自分の存在を他に知らせたいと願うのですか?」
「ええっと……そう……なんだと思います……。」
困惑した表情でそう答える妖精さんに我ながら聞き方が悪かったか、と反省しつつ次の疑問を問いかけてみる。
「そうか……ならば他の者と共に過ごしたいともお考えなのですか?」
「……はい………。」
妖精さんは物悲しそうに俯き答えた。
この様子からすると他から視認し難い以外にもなんらかの事情があるのだろう。
「あの……貴方は…?」
「これは失礼致しました。私はフリーの踊り子を勤めさせていただおります、キョクヤと言う者です。
あぁ、呼び難いようでしたらどうぞお好きにお呼び下さっても結構ですよ?
ホームはエルトナ地方のカミハルムイなのですが依頼さえ頂ければ何処へでも赴きます。
どうぞご贔屓に」
顔を覚えて頂かねばならない職に就いているというのになんたる失態か、しかしやってしまったものは仕方がない。
簡単に自己紹介をすると妖精さんは私の名を覚えようとしてくれているようだった。
また、外の世界にも憧れを抱いているようだったので外のことについても語り合った。
そんなこんなしている内に閉店の時間が訪れたようでスタッフの一人がそれの案内をする。
名残惜しい所はあったが妖精さんとスタッフの皆様に感謝を告げ
ここでお暇させて頂く事にした。
ーーーーー
最後まで読んでくださった方…居りましたらありがとうございました…m(_ _)m