明け方の林道。
ふわりと漂ってきた懐かしく、馴染み深い甘い香りに歩みを止める。
辺りを少し見回せば嗚呼、やはり貴方か。
橙色をした小さな、香り高い花を付けた香木を直ぐに見つける事が出来た。
その細い枝先に着いた綻んだ花弁に手を伸ばす。
其れを手折らぬように、この美しさに惹かれ、我を失くしてしまわぬように。
「貴方はこの世界を何と例えるのだろうか?
この世界での私は、我等はどうあるべきなのだろうか。」
きっとこの答えは、この問いは、永遠に導き出す事が出来ないのだろう。
今も、此れからも、此れまでも。
さぁ、と吹き抜ける風が朝の陽光を導き駆ける。
「嗚呼、陽が目覚めた、か……帰らねばならぬ、な」
木々を、生命の鼓動を夜の眠りから目覚めさせるその陽光に、
馴染み深い香りに背を押されまた歩を進める。
「何、そう急かさずとも私は帰ります故。」
小さく呟き目を細める。
私の、私等の帰る場所は、我等を認められる場所は其処にしか無いのだから。
私は、私達は我等は常世の常であるのだから……
多くのものを失った今、
世界を保つ為にまだ、この世界に留まる事となるだろう。
金木犀、白金の朝に、白の夜に咲く
久遠の未来を見つめ続ける気高く、爛漫で快活な花。
……であると私は詠む。