☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
これは二人目コンシェルジュとして雇った
オーガの『 べにまる 』の記憶みたい。
わ、私の妄想ではないプクよー!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ドラゴンキッズのこの体は本来、私のものではなかったのです。
この世で究極の技と言われる『 生き返しの術 』。
誰しも名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。
私はその術を受けた者。
以前はオーガだったドラゴンキッズ、それが私なのです。

オーガの私が住んでいた集落は、のどかとは程遠く荒れていました。
日々新たなトラブルが生まれ、争いの絶えない状態で心はいつもざわついていたのです。
いつかこの小さな村を出て、広い世界を自由に旅したい。
そう思いながらも生まれ育った場所を離れることにためらいを感じ、
ほとんど無意味な毎日を過ごしていました。
そして私が勇気を出して旅を始める前に、私の命を奪った火事が起こったのです。
炎に包まれながら、私は思いました。
どうして早く村を出なかったんだ、もう二度とここから出られないじゃないか、と。
私はもう歩けなかった、今から死ぬのだと分かっていた。
涙が頬を伝うことなく熱風で飛んでいった。
目を閉じて、そして全てを閉じたのです。
目を開いた時から、新しい世界が広がりました。
生き返しの術を受けた私は、ドラゴンキッズとして世界と向き合うことになったのです。
気付いた時、私は血だまりの中にいたのに傷ひとつ受けていませんでした。
当時はどういうことか全く分からず戸惑ったのですが、今なら想像がつきます。
器であるドラゴンキッズは何かに襲われ、命を落としたのでしょう。
その時に受けたダメージは生き返しの術で回復したのだと思います。
近くの川で体についた血を洗い流し、空腹を満たすために小動物を探しました。
エゼソル峡谷を歩くうちに、何匹かのドラゴンキッズと出会い、分かってきたことがあります。
オーガの群れの中で生きてきた私は、誰かと行動を共にするのが常でした。
そのことで争いが生まれるのだとしても、群れが基本なのです。
ドラゴンキッズは違いました。
出会っても少し話をするだけで別れる。
お互いを避けているわけではなく、ただ一匹でいるだけ。
一匹でいることが自然なのです。
オーガとは違うこの仲間との距離感に初めは戸惑いましたが、次第に慣れてきました。
ドラゴンキッズの仲間内で、挨拶代わりに交わされる話題があることに気付きました。
「 君は何になる? 」
これがお互いを知るためのコミュニケーションツールなのです。
ドラゴンキッズは皆子どもです。
自分がどのドラゴン種なのかは成長するまで分からない。
だから質問としては「 何になりたいのか? 」ということになります。
ほとんどのドラゴンキッズはいつもこのことを考えているのです。
初めの頃は考える余裕がありませんでしたが、ドラゴンキッズでいることに慣れてくると、
私の興味も自分がどんなドラゴンになるのか、ということに移っていきました。
この体の真の持ち主も同じように将来を楽しみにしていたことでしょう。
器の持ち主の為にも、きちんと大人にならなければ。
オーガの私には、ドラゴンの種類に関する知識が圧倒的に足りませんでした。
周辺のドラゴンキッズたちから聞いた話だけが全てなのです。
次第に私は、エゼソル峡谷を出て世界中のドラゴンを見たいと思うようになりました。
その気持ちはオーガの私が村から出たいと思っていた時よりも、ずっと強いものでした。
オーガの私が村から出たかったのは日常から逃げるためでしたが、
今の私がエゼソル峡谷から出たいのは未来を探すという目的のためなのです。
そんな風に考えていた時に出会ったのが、プクリポのアクアでした。
彼女は何の前触れもなくいきなり言いました。
「 一緒に冒険しようよー 」
気軽な口調でそう言われた時、私の内面に吹いたのは突風でした。
あまりに突然の言葉に私は戸惑い、言葉が出ませんでした。
黙っている私の態度を否の応えと捉えたようで、
アクアは別のドラゴンキッズに声を掛けに行ったのです。
私は大いに焦りました。
細かいことを考えている余裕はありませんでした。
夢中でアクアを追って、彼女の前をふさぎました。
アクアはドラゴンキッズに慣れていないようで、
私が先ほどのドラゴンキッズだと見分けることができないようです。
首を傾げてから彼女は言いました。
「 ねーねー、一緒に冒険しなーい? 」
ゴクリと唾を飲み込んでから、私は声が震えないように注意しながら答えました。
--- ええ、別に構いませんよ ---
階段を一歩、登りました。