バージョンアップ当日はまるでお祭り騒ぎだ。
この時はドキドキワクワクが凄くて前日はなかなか眠れない。
子どもの頃の遠足前の興奮を今も味わえる度に嬉しくて仕方がないんだ。
アップ日当日は予想だにしないフェスティバルに遭遇することがある。
スパスタ転職クエ、バトマス転職クエなんかがそうだ。
スパスタ転職クエというのは、スーパーハイテンションでひとつめピエロを
倒すというものだった。一見簡単そうに思えるが、武闘家の溜めるが使用
できないため、特技のボケを使ってテンションを上げるしかなかった。
なかなかボケが決まらないし、ヒットしてもピエロがなかなか笑ってくれない。
かろうじてボケがヒットした時のピエロのウキャキャキャキャキャキャという
ケラケラ笑う笑い声が何か薄気味悪くて恐怖さえ覚えた。
キラキラ大風車塔の周りには、ひたすらボケまくる冒険者たちと、
ひたすら笑い転げるピエロたち。この終わりの見えないサーカスパレードが
異様でおぞましい光景だったんだ。オレはこれをボケフェスと呼んでいる。
バトマス転職クエというのは、装備すると攻撃がミスをするという試練のバングルを
付けてデッドペッカーを5匹倒すというものだった。
攻撃がミスなんて何か面倒くさそうだけど、オレはバトマスに早く転職したかったから、
ヴェリナード北に早速向かった。ヴェリナード城から渡り船に乗り、北領に付いた時に
オレは自分の目を疑った。は・・?なんだこの人の多さ・・・?
右を見ても左を見てもどこを見渡しても、人、人、人・・・
あまりにも多すぎて全員が見えない。アストルティアにこんなに人っていたっけ。
あまりにも多い人数が数の少ないデッドペッカーを一斉に狩りにいく。
オレが先にエンカウントしてやるって勢いで必死で走るけど、全然ダメ。
デッドペッカーを全部先に狩られてしまう。
この光景はまさにカオス。空前絶後のカタストロフィだった。
2時間ぐらい走りまくったんだけど、結局一回も戦うことすらできなかった。
そんな時に馴れ馴れしくキッズに絡まれる。「なぁ、これどうやってクリアすんの?
仲間になって、お前についていくしていい?」オレはイライラしてたから、
「みんな頑張ってるんだから自分の足で探せよ」と言って突き放してしまった。
とりあえず休憩を挟もうと1時間ほど他のことをやりにいって、オレはまたここに戻ってきた。
人の多さはさっきと全く変わらない。攻撃がミスがどうこうより、まずデッドペッカーに
エンカウントができない。また1時間、2時間と時間だけが経っていく。
もう今日は諦めてしまおうか。そんな時、フレから声がかかる。
初期の頃からのフレで、初めてオレのチームに入ってくれたアストルティアブラザーズだ。
普段は関西弁が特徴で、すげーイケ魚なのに名前が超可愛らしいから
何だかそのギャップに笑えてくる。
「どうなん?バトマスクエ!ルイスいけてるん?」
オレは戦う事すら出来ない事と、イケ魚の状況を聞いてみた。すると、
「そうなんや!今メッチャ混んでるし、俺はもっと空いてから行くわー。」
イケ魚はこう答えたが、オレはどうしても早くクリアしてバトマスに転職したいことを伝えた。
すると、イケ魚が意外なことを口にした。
「それやったら、俺デッドペッカーがポップする場所知ってるねん。
多分普通にクリアできると思うし、一緒に行こか?」
え・・?オレは自分の耳を疑った。ポップする場所を知っている?
どうしてそんなことを知っているんだろう。このイケ魚はオレが知らない事を
よく知っていた。ただ、もしも仮にデッドペッカーのポップする場所を知っていたと
しても、この地獄絵図な状態では戦闘に入る事は厳しいだろう。
4時間走り回ったオレだから知っている。
オレは半信半疑だったんだけど、一人でデッドペッカーを延々と追いかけ続けるのも
飽き飽きして疲れたから、イケ魚と一緒に行くことにしたんだ。