ある日オレはひたすらレベル上げをしていた。
タイガークローが大好きだからタコを卒業して今はガルゴル狩りに精をだしている。体が柔らかいモンスターにシャオシャオシャーと爪でかっ切るゾワゾワっとくる快感がたまらない。
元気玉1個でどれだけ経験値を稼げるかのタイムアタックを兼ねて、今日も平田を雇って浜辺の洞窟に籠るんだ。
ちょうどその時期、こんな噂をよく耳にしていた。
「レベル上げはバザックスがいいらしいよ」
それは前から知ってはいたんだけど、バザックスは甲羅を纏っていてかなり硬いらしく、爪で攻撃してもダメージが通らないらしい。それだとタイガークローでレベル上げできないじゃん。
オレはバザックスには見向きもせず、柔らかいモンスターばかり狩っていたんだ。でもその半面、元気玉を使用しているフレンドはよくチョッピ荒野にいたことも気になっていた。
ガルゴルのタイムアタックにも限界を感じていたオレは、試しに見学のつもりでバザックスを狩りにいくことにした。
酒場で珍しく魔法使いを雇ってチョッピ荒野に飛んでみた。
荒れ果てた砂漠地帯にバザックスがいて、みんなで取り合い合戦だ。サポの魔法使いが魔力覚醒を使用してイオラを連発していく。光弱点のバザックスは大ダメージをうけて玉給が10万ほどいったんだ。これってけっこうイイじゃん。
オレはそれ以降サポの魔法使いを借りてのバザックス狩り、通称サポックスにどんどんとハマっていった。
開幕ぶきみなひかりを使用したり、怒り寸前におたけびでひるませる、イオナズンはMP効率が悪いからレベル67止めのイオラ使用の魔法使いを厳選したりもしていた。
壁や相撲の練習もしたし、ヘビィチャージを使ってくるとそれがターンエンドの合図だ。
アポロンが衝撃的に登場した時は、戦士でオノを担いでアポックスもしたんだ。
夜中に延々とサポックスをしていると、無になって色々な事を考え、色々な事が思い浮かぶ。
今大人になって思う事があるんだ。
子供の頃に信じていたとしても、どちみちサンタに会うことはできない。そうだとすれば、オレにとってのサンタというのは、親切なおじいさんではなく子供の夢を叶えてくれる魔法のようなもの、その象徴なんだ。
アストルティアはまるで夢みたいだ。
屈強な鎧に身を包み、身長ほどある剣を振り回し、呪文を使ってモンスターをやっつける。伝説の勇者の盟友で、世界を救って自分が自分の世界の主人公になれる。
その時その瞬間、オレの中のサンタクロースっていうのはこのアストルティアなんだなって思えたんだ。
強敵が強すぎて、世界を変えられない自分が嫌になっちまう時もある。それでもオレはこのアストルティアが大好きだ。
買ってもらった当日に踏んで壊してしまった車のおもちゃのこと、死んでしまったペットの猫のこと、好きだったことが伝えられないまま離ればなれになってしまったこと、そしてサンタがいない事を知ってしまっている罪を感じていた5歳の頃のオレを、今夜ドルボードに乗って迎えにいくんだ。
シャイで弱気な少年はこのアストルティアをどう思うんだろう?
きっときっと、大喜びではしゃいで無敵になれると思うんだ。