課金ベルトを通してみみっくほし氏が懸念していたのはもう一つある。「神ベルトのロマン要素の低下」である。
DQ10は現在でも少なくない数のロマン要素が存在する。神ベルトはその代表的な存在だったが、他にも属性耐性埋めの装備、レアドロップ率上昇で埋め尽くされた皮のてぶくろ、理論値の武器などだ。これらは通常プレイにはあまり影響しないが、エンドコンテンツではボスの特定の攻撃を耐性で無効化出来たり、盗み金策で一番ハードルが高い「レアまも」になれたりと、少なくないアドバンテージを得ることが出来る。
これらは、「運」及び「長年のプレイ」による所謂「Time to Win」の果実と言ってもいい。
そもそも、DQ10はFF11をベースに作られたと言われるほど、MMOとしての設計思想が似通っている。1990〜2000年代前半によく見られた「第一世代型MMO」に分類されるゲームだ。これらは、キャラクターの育成に膨大な時間を費やすことで、プレイ時間の長期化とそれに伴う長期の月額課金を促すという仕組みだ。ところが、ソーシャルゲームなど「手軽に出来る」ゲームの発達によって「Time to Win」の仕組みは好まれなくなり、新規層の取り込みを行うために、DQ10もFF11も数々の緩和を行ってきた。(このあたりの話は3年ほど前に書いた日誌(『MMO史とドラクエ10』、https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/398950711236/view/6345115/ ←前編・末尾6345117←中編・6345121←後編)で詳しく書いている)
その後DQ10はアクセサリー合成などの緩和を行ってきたが、依然としてキャラ育成にかかる時間は長いままなので、遂に2020年初頭のVer.5.1で課金による育成を実装した。結局のところ、こういった緩和調整は初期に始めた人と後発の人との育成にかかる手間の格差が出るという問題は避けられない。新規が先頭プレイヤーに追いつく時間を減らすということは、そもそもの設計である「Time to Win」に真向から対決することになる。DQ10の時短課金とは、DQ10をやりたいけど、そもそもの「Time to Win」という設計思想にどうしても馴染めない人のために用意された妥協案ということになる。
話をベルトに戻そう。結局DQ10が第一世代MMOである以上、時間をかけて何かを得ることを変えるのは難しい。だが、そのストイックな努力の末に得たロマン的な魅力は代えがたいものであり、「アストルティアに住んでいる」という臨場感を大きく醸し出す。神ベルトはその分かりやすい例であり、それを課金で簡単に覆されてしまうのは、DQ10の設計・魅力を根底から揺るがしかねないというのが、私が今回のベルト課金を通して抱いた一番大きな危機感である。
まとめとして具体的な改善案を検討してみる。これまで示してきたように、既存プレイヤーですら入手が難しいものを課金で簡単に入手できるようにするのは問題が多い。また、既存と新規の間の格差を減らすという思想に忠実な緩和内容にすべきである。
邪神の宮殿の場合、覚醒の鬼石のみの実装に留めて覚醒の鬼神石の実装は見送るか、それか覚醒の鬼神石に関してもゲーム内での入手手段を設けるべきだと思う。いずれにせよ、初心者と既存層だけでなく、エンドコンテンツ挑戦者の間での無課金・課金者間の軋轢も生むのは、出来る限り避けなければならない。
最後に、「殆どのコンテンツに影響が無いなら別に良くね?」と思ってる方(賛成派)へ。そういう考え方の方にとってはそもそもこの議論自体が些末なものに思えるだろうけど、「少しのステータスに命をかける」ことがモチベーションの源泉となっていたプレイヤー、そして私を含めそういったロマン要素を魅力に感じていたプレイヤーにとって、今回の発表は相当な衝撃だったことを感じて頂けたら幸いである。