ピラミッド内部は、息をすることすら狂気へと変わる灼熱の地獄と化していた。
「ひぃ……っ、ああぁっ!?」
足元で「ミイラ男」の腐肉が弾け飛び、立ち上る激臭と黒煙に主人公は激しく咳き込んだ。バトルマスター時代の「剣を振れば敵が倒れる」感覚は微塵も役に立たない。慣れない法衣は血と汗で肌にへばりつき、手元の杖は震える恐怖で落としそうになる。
「ベホマ……違う、ホイミ……っ! 誰から!? 誰から治せばいいんだよぉっ!?」
視野は極限まで狭まり、画面中央の自分の手元しか見えていない。前衛の戦士が血を噴き出して崩れ落ちるのが目に入り、頭が真っ白になる。詠唱の手が完全に止まり、そこへ「ファラオの影」が振り下ろした巨大な大鎌が、主人公の首元へ迫った。
ズドンッッ!!!!!
鼓膜を突き破る爆音とともに、主人公の至近距離で絶大な熱量をもつ「メラゾーマ」の火柱が狂い咲いた。衝撃波で主人公は地面を転がり、視界が灼熱の赤で染まる。
「ぐはっ……げほっ……!」
「どこを見てやがる、前を見るな! 戦場全体を見ろ!!」
激しい呪文の閃光を背に、レオンライトが叫ぶ。その鋭い眼光は、圧倒的な火力で魔物を薙ぎ払いながらも、主人公の無様な狼狽をすべて見抜いていた。
「前衛が削られるのは当たり前だ! 動揺して立ち止まるな! 俺たち後衛が慌てて倒れたら、このチームは全滅するんだよ!」
敵のターゲットが前衛から主人公へ切り替わった瞬間、レオンライトは即座に主人公の襟首を掴んで強引に後ろへ引きずり戻した。間一髪、先ほどまで主人公がいた床を、鋭い氷の棘が突き破る。
「ヒッ……あ、ありがと」
「礼を言ってるヒマがあるなら敵の『予兆』を見ろ! 敵が腕を上げた瞬間、安全な間合いまで下がってから詠唱を始めるんだ! 焦って突っ立って詠唱するから狙われる!」
レオンライトは凄まじい密度の攻撃呪文を途切れることなく打ち込みながら、実戦の過酷さそのものをもって立ち回りを叩き込んでいく。安全圏(セーフゾーン)の保ち方、敵の視線を察知する感覚、そして一歩引いて戦況を見渡す余裕。同じ後衛というポジションから放たれる言葉は、死の恐怖に怯える主人公の心に直接突き刺さった。
「落ち着け……! 焦るな……引きつけて、今だ……『ベホイミ』!!」
絞り出すような声とともに放たれた回復の光が、死の淵にいた前衛の身体を包み込む。完璧なタイミング。間一髪で繋ぎ止められた命。
(あ……僕、回復できた……!?)
「よし、それでいい! 次が来るぞ、構えろ!!」
絶え間なく押し寄せる魔物の群れ。二人は背中を合わせ、死線の上で呪文を交わし続けた。
怒涛の死闘の末、ついに最後の魔物が崩れ落ち、ピラミッドに静寂が訪れる。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
冷めやらぬ興奮と全身の激痛の中、主人公はその場にひざ から崩れ落ちるように膝をつき、砂まみれの床に深く頭をこすりつけた。
「あ……ありがとうございました……! 僕……僕、師匠がいてくれなかったら、絶対に死んでました……! ありがとうございました……師匠!!」
※泣きじゃくりながら叫ぶ主人公に、レオンライトは照れくさそうに頭をかきながら、ふっと柔らかく笑った。
「……大げさだな。『師匠』はやめろよ。俺はただ、後衛の相棒に背中を預けられるように教えただけだ」
その傍らには、過酷な試練をともに乗り越えた「チームの絆」の仲間たちが、温かい笑顔で二人を迎えていた。汗と血にまみれた頼もしい師匠の背中を見上げながら、青年は僧侶として、そして一人の戦士として、確実な一歩を踏み出したのだった。

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