「全滅」の二文字が、絶望の冷気となってパーティー全員の背筋を凍らせた。その時だった。
「ここは俺に任せて、後ろへ引け!!」
重厚な甲冑を甲高いく撃ち鳴らし、前に躍り出たのはパラディンのカナだった。
押し寄せる魔物の群れ。腐臭と鉄の臭いが混ざり合う泥濘の中、カナは大盾を深く構え、大地に脚を深く穿つ。直後、凄まじい衝撃音が響き渡った。巨大な敵の突撃が、まるで分厚い鉄壁に衝突したかのようにピタリと止まる。
ずざざ……っ!
靴底が地面の岩肌を削り、火花が飛び散る。巨体から繰り出される圧倒的な質量に対し、カナは首筋に太い血筋を浮かべ、歯を食いしばって押し返し続ける。 ドスッ、ガキィン!と凶悪な爪や刃がカナの甲冑を叩くたび、火花と生々しい肉の削れる音が周囲に響いた。鎧の隙間から噴き出す血。だが、どれほど強烈な打撃を受けようと、彼の膝が折れることはない。
(ヒ、ヒイ……っ!)
後方で膝をついた青年は、恐怖で腰が抜け、ただガタガタと震えることしかできなかった。手にした杖は湿った汗で滑り、詠唱の言葉すら頭から吹き飛んでいる。仲間が目前で傷ついていく光景に呑まれ、戦場にいるという自覚すら欠け落ちていた。自分が足手まといでしかない現実が、容赦なく突きつけられる。
※だが、カナは怯むどころか、腹の底からの咆哮とともに大盾を押し返した。敵の怒りをその身一身に集め、仲間へ向かう殺意のすべてを、肉体と盾で受け止め続ける。
「へばってんじゃねえぞ、後衛! 死にたくなけりゃ手を動かせ!」
口端から血を垂らしながらも、カナがニッと笑う。 (すごい……なんだあの人……死にかけなのに、一歩も引いていない……!)
危険を顧みず最前線で肉の壁となり続けるカナ。傷口から覗く肉が削れ、血煙を上げながらも絶対に倒れないその圧倒的な頑丈さと頼もしい背中に、青年は息をのんだ。
ただ狼狽えていただけの自分に、今できることは何か。自分を護るために命を削り続ける彼のHPゲージを、絶対にゼロにさせてなるものか。
青年の震える指先が、強く、強く杖を握りなおした。
「ベホ、イミ……ッ!!」
声が裏返るのも構わず叫んだ治癒の光が、カナの傷ついた身体を優しく包み込む。肉が急速に塞がり、血が止まっていく。
敵の猛攻を肉体と鉄で押し返すパラディンの盾。そして、その命を泥臭く後ろから繋ぐ未熟な僧侶の光。あの日憧れた「仲間とともに戦う」という感覚が、熱い血潮となって青年の全身を駆け巡っていた。
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