なりたかった自分になるのに遅すぎるということはない。
私の名はあずきあらい、自称さそりの教官である。
教官。
師や士を生業とする者は兎角固いイメエジを持つ。教官という職もまた同じである。高い技術を持ち多くを導く存在である者はまた尊敬をされる存在であり続けなければならない。これは永続的な使命なのだ。
幼少の頃、絵本で見た妖精。彼女達は自由奔放に生きていた。厳格とは程遠くただ気まぐれにただいたずらに。人生を謳歌するが如く、夜空を楽しそうに飛び回る姿がとてもキラキラして憧れを抱いたものだ。
鏡の中には紅いマスクをつけて微笑すらしない男がいる。
サソリは遊びではない。
真剣勝負である以上、笑いなど無い、仕方あるまい。けれども本当はあの妖精達の様に気ままに飛び回りたい。そんな心を隠し通して生きてきた。
だが、なりたかった自分になるのに遅すぎるということはない。
そう、新しい一歩はいつでも踏み出せる。
私は緑のフードを被る。
憧れの森の妖精になるために…。
鏡の中には素敵な妖精さんがいる。
人懐っこく、自由に生きていそうな風貌の。
新世界への扉は今開かれたのだ。
チンクル チンクル クルリンパ
自然と声が出る。
そうして私は新たなる強敵を求め聖廟へ飛び立つのだった。